新年をシアトルで迎える私の喜びの一つに、初釜がある。
決して茶道をたしなむわけではない。新年のあいさつを交わした後に、点心での昼食。その後のお点前で和菓子とお茶を頂く。華やかな正月の雰囲気を楽しみ、穏やかな時を過ごして心が落ち着くと、毎年、幸せな気持ちで帰途につく。
裏千家淡交会シアトル協会(清水楡華会長)の初釜は今年も、清水会長が設立運営するベルビュー・チルドレンズ・アカデミーを会場に催された。イベントは毎年地元日本語メディアで紹介されて申し込みを受け付けているので、参加費を払って誰でも参加可能。私もこの10年以上出席させてもらっている。
雪が数日降り続いて心配されたものの、幸い雪解けとなって迎えた週末。受け付け開始とともに次々と人が集まり、この日の参加者は130人近く。和服姿の女性5人のグループは、近くに住む者同士で誘い合っての参加とか。朝早く起きて着付けを手伝いましたと、リーダー格の女性がうれしそうに話していた。
茶席は、立礼と畳の2席。今年は子(ね)年とあって、茶碗にはネズミにちなんだ米俵意匠のものがあり、掛け軸にも俵に乗った大黒さんが登場。和菓子もまた、1席目のはなびら餅に続いて、2席目は俵型の練り切り。ネズミは米俵とよほど縁が深いようで、ネズミのいる家は金持ちと言われたのも、米の豊かにある家という意味だったと納得する。令和最初の初釜だからと、万葉集の歌を記した茶碗も使われ、お点前の後は「お道具拝見」を楽しんだ。
ところで、参加者の中にロサンゼルス近郊でお茶を教えているという女性がおられた。インターネットで今回の初釜を知り、様子を見に来たという。「地元でもこんな風に催せるといいんですけどね」とはどうやら、気軽に参加できる初釜をということらしい。
誰でも参加できる初釜の実現は、決して容易なことではないに違いない。当日のみならず準備・片付けに多くの時間を割いているだろう淡交会シアトル協会メンバーには、心から感謝。他の都市でも、いつか多くの人が初釜に参加して新年を喜ぶことができるよう願っている。【楠瀬明子】