2021年のノーベル物理学賞を受賞したプリンストン大学の真鍋淑郎(まなべ・しゅくろう)さんの発言が世間を驚かせました。真鍋さんは米国の市民権を持っているために日本人としての受賞ではなく、日本出身の米国人としての受賞になりました。受賞会見で、国籍を変えた理由について質問され、「日本に戻りたくない理由のひとつは、周囲に同調して生きる能力がないからです」と、自分の能力を卑下する表現で答えました。この表現は笑いと共にアメリカンジョークとして紹介されましたが、真鍋さんの言葉は、日本の同調社会に対する強いメッセージになりました。
 真鍋さんは愛媛県出身で、東京大学大学院で博士号を取り、米国の国立気象局に入局しました。地球温暖化対策につながる気象変動のモデルを、米国で開発したのです。日本での研究では多くの「同調圧力」があったのかもしれません。日本が「調和」を大切にする優れた国であることを伝えた上で、米国で自由な研究ができることを望みました。
 日本で他人と同じであることを道徳や美徳としたり、アウトサイダーであることに引け目を感じる場面が多々あります。もちろんそれが必要である場合もあると思いますが、少なくとも研究者にとって「同調」することに満足すべきではないという警告をしていることも事実です。真鍋さんは、日本人が陥りがちな横並びすることを心地よいと思うことに忠告をしたのです。
 真鍋さんと同じ四国出身の作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが実践し訴え続けたのも、世間の常識よりも自分の思うままに生きる姿でした。当時の男性中心の文壇から排除されながらも、多くの文学作品を発表し、多くの人々を癒やし続けて九十九歳の大往生をされました。寂聴さんの生き方にも「同調」社会にくみしない姿がありました。
 日本に戻る理由と戻らない理由を、考え続けている方も多いのではないかと思います。どちらかが正しいとか、誤った判断だと言うつもりはありませんが、真鍋さんの言葉や寂聴さんの生き方は、日本人に対する未来への応援の言葉であると思いました。【朝倉巨瑞】

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