渡米してLAに暮らし始めて数カ月、次第に周りが見え始めて気付いたことがある。
 米国は民主主義の国、民主主義とはどんな社会だろう? クリスマスがやってくると街は買い物客でにぎわうが、一方で多くの人がホームレスの人たちの食事サービスにボランティアで参加する。有名アスリートも俳優たちも混じっている。中には「私は貧乏で寄付もろくにできないし、ボランティアに出かける時間もないが、でも年に1度、クリスマスは特別だ。病院で過ごす子どもたちを、せめて1時間だけでも抱きしめてあげるのが、私のできるクリスマス・プレゼントだ」と言う人もいる。
 横浜国立大学の教授の依頼で1996年からゼミ生のLA研修を引き受け、毎年ロサンゼルスの市議会を見学した。ここでは週に1度、市議会の冒頭で、市民に対して善行を行った人たちの表彰が行われていた。推薦者が理由を述べ、議員たちが賛成すると、市長以下全議員が署名した表彰状が用意される。こうした市議会の様子は常設のTVカメラに映されケーブルTVで24時間繰り返し放映される。市民は市議会で何が討議され決定されたのかを知ることができる。周辺の市議会でも同じように、議場にはTVカメラが備えられ、市民に市議会の様子が公開されている。
 そうか、市民が自分のできる範囲で支え合うのが民主主義の社会なのか。お金に余裕のある人は寄付をし、時間のある人はボランティアをする。そしてそのように貢献した人たちを皆でたたえ合う。これが民主主義のシステムなんだと納得したものだった。
 日本の各地からの視察団を案内して何度か、ロサンゼルス以外の市議会の見学も行ったが、どの市も議員席は馬蹄形になっており傍聴人席の市民に向き合っていた。日本からの視察団から「そうかこれが民主主義の原点なんだね。議会が市民に向き合っている」と納得したような感想が聞かれた。
 近年の数字の比較だが、ロサンゼルス市議会の議員数は15人、人口は約386万人、横浜市の市会議員数は86人で、人口は約377万人である。人口に比してなんと日本の各都市の議員数が多いことか。しかし、議員数は少なくてもロサンゼルスの市議会は日本と異なるさまざま理由で私を驚かせた。(続く)(若尾龍彦)

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