羅府コラムニスト小川弘子さんの音楽エッセー

 今年6月にロサンゼルス・ダウンタウンに開館した、世界初のAIアート美術館、データランドに行ってきました。とても不思議な気分になる、何とも形容し難い経験でした。

 メディアアーティストのレフィク・アナドルとパートナーでアーティストのエフスン・エルキリチによって設立されたデータランドは、フランク・ゲーリーが設計を手掛けた「ザ・グランドLA」という複合施設の一角にあります。レストランやホテル、コンドミニアムに囲まれ、ウォルト・ディズニー・コンサートホールやザ・ブロード、ロサンゼルス現代美術館などを含む文化地区の真ん中という恵まれた立地です。

 事前にウェブサイトをよく読んでみても、コンピューターやAIに疎い私は、アート、科学、テクノロジーなど複数の分野を統合した美術館ということしか分からず、2万5千スクエアフィートの面積に15億画素(画像や映像を構成する小さな点)という数字を見ても、何かスゴいんだろうなぁ、という程度の認識でした。

 私は、平日の昼間に行ったので待ち時間なしですぐに入館できましたが、週末は優先チケットを持っていてもかなり並ぶようです。入場料も、平日49ドル、週末79ドルと大きな差があります。全部見終わるまでに、1時間から2時間くらいですので、これが安いか高いかは、個人の満足度によるでしょう。

 実際に見た人の感想は、極端に2種類に分かれています。AIやテクノロジーの分野に精通している人、大好きな人の多くは、絶賛しています。こんなのは見たことがない、今まで見た中で最高だ、などなど。一方で、内容、スタッフの対応、入口で装着させられるリストバンドのようなものから集められた個人データの扱い方に疑問や不満を抱く人もいるようです。

 私は、覆いかぶさってくるようにも感じられるほどのAI生成の映像と大音量を受け止めきれず、それらはアートなのか、純粋にテクノロジーなのではないかという疑問を抱かずにはいられませんでした。美術のことはよく分からないなりにも、これまでかなりの数の美術館や博物館に行き、人間の手仕事としての作品を見てきた経験から、データランドを美術館と捉えるには、私個人的には、全てをそしゃくし理解するための時間が必要だと感じました。要するに、どれだけスゴイのかありがたみが分かっていない、ということなのかもしれません。分からないものに対して、好きも嫌いも、良いも悪いも、判断できないわけです。

 ただ、私のような人も少なくないでしょうし、体験型アートの仕様をとっているのですから、もう少しスタッフの人たちが、何をどうすれば何ができ、それがどういう意味を持つのかなどの説明や手助けがあったらよかったのにと感じました。それらが分からず、体験できるはずのことの一部しかできず、100%の楽しみ方ができなかったかもしれず、それは残念でした。私が行ったのは、開館して1カ月もたっていない時だったので、スタッフに関しては少しずつ改善されているかもしれません。

 すぐ近くのロサンゼルス現代美術館やザ・ブロードは、常設展だけを見る一般入場料は無料、少し離れたところのルーカス・ミュージアムはデータランドの半額で、いずれも一日中楽しめます。それを考えると、データランドは、人集めは簡単ではないと思いますが、世界初のAIアート美術館という唯一無二の存在として、ロサンゼルスの新名所の一つになっていくのか、これからの推移を見ていきましょう。

おがわ・ひろこ


神戸大学教育学部音楽科卒、同大学院修士課程修了。声楽、器楽、合唱、バレエなどのピアノ伴奏者、および合唱指導者。現在、南加日系合唱連盟会長。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です