NHKで「次は スポーツ 一柳さん です」というような表現を好むのは、夜9時のニュースの青山キャスターだけではない。と言うよりは、そんな言い方がNHKではごく普通になっている。そして、それが大問題であることにNHKは気づいていない。
 それは、なぜ「大問題」なのか? 「次はスポ—ツ・ニュースの時間です。一柳がお伝えします」「次のスポーツ・ニュースは一柳が担当します」「次はスポーツ・ニュースをお伝えします。担当するのは一柳アナウンサーです」「次は、一柳アナウンサーが担当するスポーツ・ニュースの時間です」「次にお伝えするスポーツ・ニュースを担当するのは一柳です」などといった多様な表現がすべて抹殺されてしまうからだ。抹殺されて、放送する側も視聴する側も、その思考が単純で幼稚なものに一元化されてしまうからだ。
 簡便さだけを〈良〉として、言葉の豊かさを日本語から奪ってしまうのはNHKの仕事ではない。むしろ、NHKは日本語の豊かさの保護者・擁護者でなければならない。そうであるのが、視聴料を払っている国民への義務であるはずだ。
 日本語の表現から豊かさを奪ってしまうと、日本人はいずれ、豊かに思考することを忘れてしまう。いや、NHKのアナウンサーやキャスター、それに記事や原稿を書くライターたちはとっくに、豊かな日本語の使い手ではなくなっている。豊かな思考者ではなくなっている。
 だから、たとえば、「けさの積雪 交通が大混乱 です」というような言い方を平気でしてしまう。実に幼稚で稚拙な表現だ。「けさの積雪で交通が大混乱しています」「けさの積雪のために交通が各地で大混乱状態になっています」などの方がまともな日本語なのだと感じないほどに、NHKの日本語感覚は衰退しているのだ。恐ろしい事態だ。
 NHKは、日本人全体を劣化した思考しかできなくしてしまってはならない。劣化した思考力で国際、産業、経済、科学社会を生きていくしかないようにさせてはならない。NHKは、日本をそんな国にしてはならない。【江口 敦】

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