食事のとき、好きなものから先に箸をつける人、好物は残しておいて最後に食べる人と、さまざま。
新聞を読む場合でも、1ページ目から順に読んでいく人、三面記事あるいはスポーツ面から先に目を通す人など、これもさまざま。
けれど今、羅府新報が来たら先ずは連載小説「柵春夢」から読み始めるという声をよく聞く。言われるところの「メディアの危機」に詳しい口さがない知人などは、「小説が完結するのが先か、新聞発行が停止になるのが先か」などと、恐ろしいことを平然とのたまう。
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先の大戦時に、日本語でびっしりと書かれた三冊の日記帳とメモ帳二冊、それに80枚余りの貴重な写真がこの小説の素材。史実に基づいた臨場感あふれる描写が60有余年という時の流れを忘れさせる。戦時転住体験の有無にかかわらず、読者に一体感を覚えさせるドラマ展開。2月の連載開始以来、読者の反響も大きい。
「今まで、この種の小説は陰湿で暗いものが多く、客観性よりも被害者意識ばかり目立つものが多かった」が「この小説は明るくテンポがあって、文体も人を惹き付ける新しさがある」「小説の連載を聞いて、慌てて購読を再開した」「読み終えた後は、切り抜いて保存している」などの声が編集部に寄せられている。うれしい限りだ。さらに、「柵春夢」は何と読むのか、この本はどこで買えるのか、といった問い合わせも。
日記を書いたキヨシはすでに亡くなっているため、正確な読み方は不明だが、作家の黛信彦氏は「『サクシュンム』と読むのが正しいと思われます。柵は収容所、春は解放される喜び、夢は切望するとの意味合いから、『収容所から解放されるときを夢見ながら』ということでしょうか。キヨシには転住所内で書いた『柵春夢』という小説があり、キヨシの願いを込めて、そのタイトルをそのまま借用したのです」と話す。
この「柵春夢」は書き下ろし新聞小説のため、まだ本になっていない。あと4カ月ぐらい連載を続ける予定です。引き続きご愛読ください。【石原 嵩】