ウォーターゲート報道の「伝説のジャーナリスト」、ボブ・ウッドワードの新著「Obama’s Wars」を読んだ。「オバマの戦争」とは、第一義的には「アフガン人の戦争」であることをあらためて思い知らされる。
アフガニスタンが泥沼化している要因のひとつは、パキスタン政府軍の情報機関とアフガンのタリバンやアルカイダとの関係、そしてタリバンを支援するパキスタンとの国境地帯を統治するパシュトゥン部族の軍閥との癒着関係だ。お互いに敵味方ながら、外国勢には協力して立ち向かう。民族的なつながりというか、自尊心というか。
面白いエピソードが出てくる。フセイン・ハカニという駐米パキスタン大使(54)とオバマ大統領の側近たちとのやりとりだ。ジョーンズ大統領安全保障担当補佐官(当時)が「テロ撲滅でパキスタンの助けが借りたい。アメリカはなにをすればいいのだろう」と尋ねる。
ハカニ大使は、アメリカから武器弾薬やカネをせしめているくせに言うべきことはピシャリと言う。「経済援助も軍事支援も大歓迎だ。しかし、もう少し尊敬の念を持って相手をしてくださいよ。人前で辱めるようなことは止めて下さい。女をし止めたいのなら、高価な指輪はひざまずいて差し出すものです」
大使は、歴代首相補佐官などを経て、36歳の若さで駐スリランカ大使になったのち、99年、ムシャラフ軍事政権発足と同時にアメリカに亡命。ムシャラフ去ったのち、パキスタンに戻って直ちに駐米大使に抜擢された切れ者だ。アメリカが日本の幕末期にも似たアフガン情勢をどう収め、どう抜け出すのか。
「ブッシュの戦争」から「オバマの戦争」になってからはや2年の年月が流れたが、戦況はあまり変っていない。戦争続行を支持するアメリカ国民は37%しかいない。
ウッドワードの本を読む限り、そこに広がっているのは、「早く逃げ出したい。が、アメリカには勝つための方程式などない」という切羽詰った「風景」だけだ。
が、アフガンやパキスタンの人たちには、どんな「風景」が見えるのだろうか。【高濱 賛】