日本品種のほくほくご飯に納豆、漬物や和菓子。これらの日本食がすぐに手に入るロサンゼルスは本当に便利な街だ。七夕や月見など季節の行事も多く、まるで日本にいるかのような錯覚すら起こす。
 私が以前住んでいたチコはカリフォルニア州北部、サンフランシスコから車で北へ約4時間の所にある小さな学生町。のんびりとした雰囲気と美しい緑に囲まれた大変過ごしやすい場所だった。ただ小さな町なだけあって日本食マーケットがない。ちょっと納豆が恋しくなっても、サクラメントにある日本食マーケットまで車で2時間かけて買いに行くありさま。
 そんなチコで、老人ホームに住む友人がいる。ご主人はすでに他界し80歳を過ぎた今、長く親しんだ場所を離れることはせずひとり入居を決めたという。社交的な性格でいつもみんなの人気者。夕食後に催されるゲームにはいつもお誘いを受け、快適な施設での生活を楽しんでいるかのように見えた。しかし「おいしい日本食と日本の伝統行事が恋しい」。それが本音だった。
 出される食事はすべて洋食。90歳を超えた他の入居者がローストビーフやピーチパイをおいしそうに食べるのを横目に、ごはんとみそ汁が頭をよぎる。充分な設備と環境だが、退役軍人やその家族が多い施設での行事に、戦争を経験し親しい人を失った彼女にとって、彼らをたたえる行事には戸惑いの色を隠せない。施設側からすれば、たったひとりの日本人入居者のために日本食の提供や行事への配慮はなかなか難しいのだろう。いつしか両親から送られてきた日本食を彼女に届けるのが日課になった。おいしそうに食べる横顔見たさに。
 ロサンゼルスには高齢者に日本食を提供する施設がいくつかある。運営が厳しくなろうとも、おいしい日本食を楽しんでもらいたいとの思いから寄付を呼び掛け続けているという。日本食とともに生まれ育ち、幼い頃の思い出残る日本の伝統行事。これらがどれだけ高齢者の元気の源になるか是非皆さんにも知って頂きたい。【吉田純子】

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