シーズンが終了し、選手、監督の移籍話で盛り上がる野球のストーブリーグ。その中で、気掛かりなケースが1件ある。楽天から入札制度を利用して、移籍を目指している楽天・岩隈久志投手の交渉が難航している。夢を叶えるあと一歩と迫っているが、岩隈側は、先方から提示された契約内容(4年総額1525万ドル)で、期間が長い上に希望年俸に開きがあり受け入れがたいという。フィールド外の「戦い」は醜いが、プロである限りしょうがない。
交渉権を獲得したのは、アスレチックス。軍資金に乏しいながらも、徹底研究して年俸の低い将来有望なコストパフォーマンスがいい選手を揃え、地区優勝を狙えるチーム作りをすることで知られている。その総責任者が、敏腕のビリー・ビーンGMだ。著書「マネー・ボール」(2003年)では、独特の理論でいかに金銭を掛けずにチームを強くするかを紹介し驚かせた。
だが今回は、その持論とは逆に入札金だけで1910万ドルという巨費を投じた。定評の勤倹さは、どうなったのかと疑ってしまった。入札に大金を費やしたためだろう。年俸385万ドルは素人目からも低い。球団は、純粋な気持ちで「夢をかなえたい」と願う選手の足元を見ているようで残念だった。
エージェントのダン野村氏は、球団側から「提示額をのめないなら交渉を打ち切る」と伝えられ 「一方的すぎる」と批判。選手に不利だと同制度の欠点を列挙し改革を訴えている。USAトゥデイ紙は、同制度での「イワクマが初めての犠牲者になる」と同情的。波紋は広がり、入札制度が見直される機会になるのは間違いない。
岩隈は、来季終了後に取得するFAを待たずに同制度を利用して移籍を決断。急いだ理由の1つが、楽天球団にすべて支払われるという入札金だという。世話になった球団への「恩返し」を込めての心配りだ。両者が成立に向けた再交渉の席に着き、野球界をおもしろくしてもらいたい。【永田 潤】