欧米では史上最悪の極悪人とされるアドルフ・ヒトラーも草葉の陰で苦笑しているかもしれぬ。
期せずして日米双方で「ヒトラー呼ばわり」騒ぎが起こっている。
まず日本。
民主党の仙石由人代表代行が、名古屋市議会と対立して辞任、やり直し選挙に立候補して再選された河村たかし市長の政治手法をとらえて、「独裁的でヒトラーみたいだ」と批判。「政敵を批判するのにヒトラーを持ち出すとはけしからん」と顰蹙(ひんしゅく)を買っている。
一方のアメリカ。
民主党のコーヘン下院議員が1月29日の本会議場で「医療保険改革を批判する共和党の手法はまるでヒトラーのプロパガンダそっくり」と演説。これに保守系フォックス・ニュースのビル・オーライリーが噛みついた。
そのオーライリーを直ちに攻撃したのは、「コメディ・チャンネル」のジョン・スチュアート。「ヒトラー呼ばわりはフォックスの専売特許じゃないか」とコーヘン議員の援護射撃を買って出た。まさに保守とリベラルによる、どっちが「ヒトラー的か」の論争が続いている。
そこへいくと、日本での「ヒトラー呼ばわり」騒ぎのほうは、扱ったメディアもごく一部で、今ひとつ盛り上がりを見せていない。
日本はかって日独伊三国枢軸同盟を結んだこともあり、ヒトラーに対する親近感はあっても、欧米ほどの嫌悪感はないのかどうか。
「お前はヒトラーだ」と言われたら、アメリカ人はなんと思うか。「許しがたい侮辱だ。ヒトラーは単なる独裁者ではなく、多くのユダヤ人を計画的に虐殺した極悪人」(L・フィンセン・レッドランズ大学教授)
ナチスを正当化することは法律で禁じられているドイツには反ナチス法がある。ドイツ連邦最高裁はウェブ上でホロコーストを否定したオーストラリア人に有罪判決を下している。
もし仙石さんが欧米で誰かをヒトラー呼ばわりしたら、国際世論はどんな反応をするだろう。
失言を繰り返してきた仙石さんだけに、国際社会では不適切とされる発言はしないのに越したことはない。【高濱 賛】