始発駅などで誰も乗っていない電車に乗車したとき、最初の乗客は一番隅の座席に座り、次の人は最初の人の連れか知り合いでない限り、一定の距離をとって座るのが普通だ。また、空席のあるカウンターでも他人から離れた隅の席にすわったりする。相手と自分との距離で、他人に侵入されると不快感や抵抗感を感じる私的空間をパーソナル・スペースというのだそうだ。
パーソナル・スペースの範囲は、その人の性格や相手との親密度などによって大きく異なり、相手が家族・恋人など親密な関係にある場合は限りなくゼロに近いが、そうでない場合は一定の距離を保つ必要があるのだ。
東日本大震災では多くの方々が被災し、避難所生活を余儀なくされている。現地の学校や公民館などで不自由な毎日を過ごしている皆さんの様子がテレビや新聞で報道されているが、最初は被害の大きさに呆然とし、寒さや空腹を克服するだけを求めた人たちも、避難所で落ち着きを取り戻すにつけ、パーソナル・スペースが確保されない苛立ちが出てくることは当然の成り行きだ。人間として最低限のスペースとプライバシーが保障される空間の確保なくして避難民救済はありえないだろう。
その対策としてまず避難所に仕切りを作るなどの対策が講じられているようだが、これからは住宅の提供ではないだろうか。日本中の自治体が一時的に各地の空いている公営住宅に入居できる仕組みをつくる必要があろう。
さらに被災地域の安全な場所に仮設でもよいから住宅を建設して1日でも早く被災者の家族に提供することだ。
また、仮設住宅の割り当てはお互い顔なじみの近所どうしだった家族が近くで過ごせるように工夫すればパーソナル・スペースの観点からも良いと思う。
日本国は今回の大災害をふまえ、長期にわたる復興計画の立案を目指していると聞く。今回の大災害を「想定外」の出来事と片付けず、災い転じて福となる計画にするためには私たち日本人すべてが日本全体の責任としてこの難局に立ち向かう意識が必要であり、その覚悟を問われていると思う。【河合将介】