帰宅するたび、涙が止めどもなく溢れ出し、ガレージに止めた車からなかなか降りられない日々が続いた。玄関の戸を開けても、カチカチと爪の音を立てて歩く足音はもう、聞こえてこない―。
喜怒哀楽を共にした愛犬が、天国に旅立った。虐待され、やせ細り、歯は使い物にならないほどのひどい状態で捨てられていたところをレスキュー団体に保護され、05年にわが家にやってきた。
何を話しかけても無反応で、じっと壁を見続けている状態から、初めて遠慮がちにしっぽを振った日、そして全身で喜びを表現できるようになった日まで、今でも鮮明に覚えている。
人間に裏切られゴミのように扱われても、再び人間を信用しようとするその従順さに心を打たれ、一生、責任を持って面倒を見ることを決意した。
しかし、運良く第二の人生を手に入れることができるペットは少ない。ロサンゼルス市では、毎年5万匹以上もの犬や猫がシェルターに持ち込まれ、うち新たな飼い主が見つからず安楽死させられるのは年間約2万匹にも上る。
愛犬の他界後、ペットフードを寄付しようとシェルターに立ち寄ると、整然と並ぶ鉄格子のケージ越しにたくさんの犬が駆け寄ってきた。「次は自分か」と、もらい手が現れるのをひたすら待っているのだ。
捨て犬や野良猫、闘犬などが多かった昔と違い、今シェルターに持ち込まれるペットのほとんどは、飼い主による「ギブアップ」。長引く不況の影響を受け、「経済的に苦しく面倒を見られない」というのが大半の理由という。
そのため、ケージの中にいるペットたちは人間に慣れており、しつけが行き届いているものも多い。皆、目を細め、体勢を低くして、ちぎれんばかりにしっぽを振って、なでてもらおうと鉄格子に体を押し付けてくる。
愛犬から学んだことは多い。レスキューする大切さもその一つ。シェルターから戻ったその日以来、静かだったわが家にまた、カチカチと爪の音が響き始めた。【中村良子】