しばらく前の新聞記事に「カネで買えぬ? 幸福感」というタイトル記事があった。
この記事によると、人は収入が上がるにつれ生活の満足度は増すものの、必ずしも幸福感が増すとは限らないとする調査結果がまとめられ、米科学アカデミーで発表されるとあった。この調査結果は米プリンストン大の教授らが、米国人45万人以上を対象に実施したデータをもとに、年収と幸福の関係を自己評価してもらい、統計的に分析したものだという。
これによると、暮らしに対する満足度は年収が増えるにつれ一貫して上昇するが、「昨日笑ったか」などの質問で測る「感情的幸福」の度合いは、年収7万5000ドル(約600万円)前後で頭打ちになっていたという。「幸福は金で買えない」というが、これを裏づける報告といえそうだ。
最近、GNP(国民総生産)で示されるような、金銭的・物質的豊かさを示す概念に対し、精神的な豊かさ、つまり幸福を目指すべきだとする考えから生まれたGNH(国民総幸福量)という言葉を耳にするようになった。昨年、国王夫妻が訪日されたブータン王国が取り入れている政策なのだそうで、ブータンでは「経済成長は、幸せを求めるために必要な数多い手段のうちのひとつでしかない。国家の目標はただひとつ、国民の幸せに尽きる」と説いているという。
ブータン王国が採用している、これら人間中心の考え方は根底にチベット仏教の教義があるのだろう。日本政府でも昨年、「幸福度指標」を作成する方針を閣議決定したが、仏教と縁の深い日本と日本人も、ブータン的人間中心の発想を取り入れることは出来るはずだ。これまでの日本は、目標と手段を取り違え、ひたすらに高度経済成長にまい進してきた。その結果、物質的豊かさはある程度満たされた半面、精神的な貧しさばかり目立ち、幸福感からは距離が出来てしまったように感ずる。
経済成長やおカネを無視しては国家運営も個人生活も成り立たないが、右肩上がりの経済成長ばかりを追い求めても、幸福にはつながらないことは上記「カネで買えぬ幸福感」が示すとおりだ。【河合将介】