「食べてすぐ横になると牛になる」—子どものころ親からこのように言われた人は多い。もちろん、本当に牛になるわけではなく、行儀作法の悪さをたしなめたもの。現代医学では、食後は小一時間ほど静かにしていたほうが体によいそうだ。
力士、特に育ち盛りの新弟子たちは朝稽古のあとはたらふく食べ、食後は何もせず、すぐゴロリと横になって昼寝するのが日課。勝負に勝つため、体重を増やし太ることに努める。健康によいとされる理想体重を維持するなんて、眼中にない。
一般の人なら、肥満度指数を表すBMI(ビー・エム・アイ、Body Mass Index )を頭の隅に入れて食生活や適度の運動を心がけようと意識する。BMIは体重㌕÷身長㍍の二乗から求められ、標準値は22。標準値に近いほど病気になる確率が低いとされているから、侮れない。
「肥満はさまざまな生活習慣病を引き起こす健康の大敵」と医者は言う。理屈では理解できる。食生活を見直し、自己管理に努めても、たいがいは三日坊主に終わることが多い。実践は至難の業だ。だから、子どものときから意識改革が必要との観点で、ミシェル・オバマ大統領夫人は子どもの肥満防止対策に熱心に取り組んでいる。ホワイトハウスの庭に家庭菜園を造ったり、小中学校に出かけては食生活の大切さを話す。意義深い、素晴らしい試みだ。
それでも、子どもたちの肥満は増えている。大統領家のように、美味しく、栄養価も高いものを値段に関係なく選んで食べられる子どもたちは恵まれている。しかし、エンゲル係数が高い所得層の子どもたちは、そうもいかない。どうしても安くて満腹感を味わえ、味だって悪くはないジャンクフードを選択せざるを得ない「家計の事情」だってある。太りたくて太る力士たちと違って、肥満が健康に悪影響だとわかっちゃいるけど、なかなか実践できないのも現実だ。
確かに健康は、この上なく価値があるものだが、失いやすい財産でもある。なのに、その管理はこの上なくお粗末なことが多い。「後悔さきに立たず」にならぬように、先ずはお金のかからないBMI計算でもしてみよう—。【石原 嵩】