「ここのものは全て、手で触れて貰いたいのです」。そう話す館長の竹村義明さんによってドアが開けられると、100年以上にわたる歴史の詰まる空間が広がった。シアトルの北北西約30マイル、美しいフードカナルに面したワシントン州ハンスヴィルの「一世パイオニア資料館」でのことだ。
竹村さんは1956年、浄土真宗西本願寺派の開教使としてサンタバーバラに着任。以来、カリフォルニア、オレゴンの6仏教会で勤務し、シアトル別院輪番を最後に米国仏教団を退職するまで多くの一世に出会い、その最期に立ち会って来た。そして、このパイオニアたちの歴史を後世に残したいと、散逸しそうな写真・手紙・書類やそのほかの品々を蒐集して来たのだ。
最初の蒐集品は、自身の家族のもの。母方の祖父母は、前世紀初頭にシアトル近郊オーバンに住み着いた一世だった。檀家の人々は、日系史に深い関心を寄せる開教使に、思い出の品を託した。暇をみては古本屋や図書館、古物店を回り、興味深い物があればコツコツと買い集めもした。
1976年、それらを集めてサリナス仏教会の一角に、一世パイオニア資料館は誕生した。「全米初の日系資料館として、時の大統領からも首相からも祝辞を頂きました」と竹村さん。資料の一部は、ロサンゼルスの全米日系人博物館が開館するにあたり、貸し出されたりした。だが19年の後、サリナス仏教会の改築にあたって展示の場は失われ、情熱をこめた蒐集品は再び箱詰めされた。
資料館が、退職した竹村さんが住むハンスヴィルでようやく再開の運びとなったのは、2004年のことだ。2010年春から13カ月間にわたり日本の国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)で催された『アメリカに渡った日本人と戦争の時代』展にも、多くの資料が貸し出された。
「出稼ぎから定住へ」のテーマで日系の歴史をたどる資料館には、本・新聞・写真や道具・家具、工芸品など、パイオニア一世の時代から戦中・戦後に至る資料までが、所狭しと陳列されている。研究者にとって興味深い資料も多い。【楠瀬明子】
(www.isseipioneermuseum.com)