「社会で通用する人材を育てる大学スポーツ教育」を目指す立正大学硬式野球部(永田高英部長、伊藤由紀夫監督、東都大学野球連盟2部所属)はこのほど、元文部科学副大臣の小島敏男・立正大学客員教授を団長に、3、4年生部員を対象とした海外研修をロサンゼルスで実施した。参加部員は国際経験を通じ、野球人としてだけでなく、一学生として学んだそれぞれの熱い思いを胸に、このほど帰国した。
【文・写真=中村良子】
研修は、野球部員を受け入れる同大学法学部の「文武一体」を目標とする教育の一環として3年生を対象に企画。今年が立正大学創立140周年にあたることから記念行事として認定され、希望する4年生部員も参加した。現地のコーディネーターは、日系人協会青年部のジョシュ・モリさんが中心に務め、部員に国際体験を提供した。
参加部員42人のほとんどが初来米とあり、出発前3カ月間にわたり米国の歴史や文化、英語を学習。その成果もあり、地元チームとの合同練習では英語で積極的に会話する姿もあった。小池宏季投手は、「米選手と英語で会話が成り立った時の感動が忘れられない」と刺激を受けた。
全米日系人博物館訪問後、将来教師を目指す米田達哉内野手は、「こういう歴史を自分たちの世代が知ることで、さらに若い世代に伝えていくことが大切」と述べ、沖縄県嘉手納町出身の金城圭佑内野手は、「真珠湾攻撃の時、アメリカにいた日系人はどうしたのかと気になっていた」といい、ツアーで日系人の苦悩を学び、「過去を変えることはできないので、自分たちからコミュニケーションを取って交流していくことが一歩だと思った」と感想を述べた。
「チームメイトは家族」
ドジャース球団 ヒルマンコーチが講話
ドジャース球団の協力を得て、一行は球場ツアーとトレイ・ヒルマン・ベンチコーチの講話を聞いた。歴史ある球場内で部員は終始目を輝かせ、試合前の練習に励むプロ選手を前に同じフィールドに立てたことに心を躍らせた。
荒巻康平マネジャーは、「子供のころ初めて父親にプロ野球に連れて行ってもらった時、また高3でスコアラーとして甲子園に入った時のワクワク感をさらに上回る高揚感。夢のよう」と感激した。
日本ハムでの5年間で同チームを2度パ・リーグ優勝に導き、06年には44年ぶりの日本一を達成させたヒルマン氏は、日米野球の違いを説明するとともに、日本人選手の自己管理の素晴らしさや、敬意を持って人と接する思いやり精神を称えた。また強いチームになるためには「チームメイトを家族と思え。フィールド内外でコミュニケーションを」と伝授した。
メモを取りながら真剣に聞く部員一人ひとりの目を見ながら同氏は、「野球人生29年目の今でも毎日が勉強」と、向上心を持つ大切さを未来のリーダーに力説。終始、「自分は特別な人間ではなく君らと同じ」と謙遜し、最後は一人ひとりに、「ガンバッテ」と声をかけた。
ヒルマン氏の話を受け、秦夢有希外野手は、「日米の野球スタイルの違いを学べとても勉強になった。チームメイトを家族と思い、自分の頭でしっかりと考えて行動する大切さを再認識した」と述べ、貴重な経験に感謝した。
球場スクリーンに立正大学創立140周年を記念する祝福メッセージが流された同日夜のロッキーズ戦を観戦した天野寛外野手は、「スタジアム全体が純粋に野球を楽しんでいるのが伝わってくる。(観客が)見たままの感想を体で表現している」と雰囲気の違いを肌で感じていた。
南カリフォルニア大学のデドゥー球場で7日に行われた対ビクトリー・スカウトチームとの記念試合は、打線がつながり19対5と立正大学が圧勝。試合を終え伊藤監督は、「オフシーズンで相手チームの実力は出ていないと思うが」と前置きした上で、「練習が浅い中で不安もあったが、皆でつないで得点していこう、一点を大切にしていこうというところがよく見えた」と振り返った。
昨年日米大学野球選手権大会に日本代表として出場した吉田裕太捕手は、「バントを使ってくるなど日本の野球との類似点も発見した」といい、「全体的には立正大学としていい試合ができた」と話した。また副将の青木匠平捕手は、「アメリカ人選手はコミュニケーションのとり方がうまい。試合中もその場で思っていることを伝えていて、自分たちも今後に生かしたい」と刺激を受けた。
人間的な面でも成長
秋のリーグ戦に向け意欲
1週間の研修を終え、主将の長谷川秀輝内野手は、「技術的な面では個々で感じていると思うが、この研修の意味する人間的な面での成長を皆にはあらためて理解してもらいたい」。9月から始まる東都秋季リーグ戦を前にした研修に不安の声もあったというが、「充実した研修だった。多くの方の協力と理解があって実現した研修。リーグ戦2部優勝、入れ替え戦で1部へ行って、研修にかかわってくれた人のためにも結果を残したい」と意欲を述べた。
青木副将は、アメリカ人が楽しそうに自信を持ってプレーしている姿を見て、「野球の楽しさを再確認した。楽しくて始めた野球だったが、厳しい環境の中でプレーするにつれその楽しさを忘れている部分があった。でも、アメリカ人は今でも当時の感情でのびのびとプレーしているように見え印象的だった」と振り返り、「皆のモチベーションも上がったと思う。これをどう維持できるかが大切」と、帰国後のリーグ戦に向け決意を新たにした。
米国公認医療従事者で大リーグのアスレチックトレーナーも務めた小山啓太コーチ兼トレーナーは、「初めて外の世界に出て、見えていなかった部分が見えてきたと思う。研修が人生の1つの糧となることを望んでいる。同じ立正大野球部卒業生として、部員には世界に羽ばたいてほしい。野球に限らず、人として前進してもらいたい」と部員の今後に期待した。
取材後記
甲子園という大舞台を経て野球一筋に生きてきた青年たち。国外はもとより、野球の外の世界すら見る機会が少なかった彼らにとって、すべてが新鮮だった。ドジャー球場を見た時の目の輝き、体格のいいアメリカ人選手相手に「対等に戦える」と感じた自信、アメリカ人の心の広さやコミュニケーション力の高さ、また世界の広さを実感した感動。到着時の緊張した表情から一転、帰国時に見せた笑顔には、人としての成長と今後への自負が伺えた。進む道はそれぞれでも、彼らが体感したことは確実に将来に生かされるだろう。