再建が期待される全米日系人博物館
 日本人移民や強制収容所の体験など日系史の継承と日本文化紹介に努め、米国と日系社会で重要な役割を果たす全米日系人博物館。だが、さまざまな活動を支える運営資金不足の問題を抱え、この状態が続くと破産しコミュニティーの貴重な財産を失うことになる。慢性的な赤字体質からの脱却を図るために、今年3月に館長兼最高経営責任者(CEO)に抜擢されたのがグレッグ・キムラ氏だ。再建を託された44歳の若い新リーダーは、斬新なアイデアでさまざまな改革に乗り出している。
羅府新報のインタビューに応えるキムラ館長兼CEO
 自身は日系4世で、祖父が帰米2世、母が白人系。アラスカ州出身のため、ハワイやシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルスなどで生まれ育った日系人とは異質で、日系社会とは無縁だと心配された。だが、アラスカ在住時から同博物館の会員であり、ロサンゼルスを訪れた際には来館し「さまざまな展示を見学して、心から感動した。この博物館に来ると里帰りした気分になる」と、日系人としてのアイデンティティーを確認した。自身が混血であることから「ハッパ」展も楽しんだという。同館の役割について「文化とダイバーシティーそして、われわれすべてが関係するアメリカ人であることの意味についての重要性を伝えるだけでなく、展望を持って未来に導いていく」と強調する。
 学業優秀で、ハーバード大で神学の修士号を、ケンブリッジ大では宗教学の博士号を取得した。前職は、非営利団体「アラスカ・ヒューマニティーズ・フォーラム」で会長兼CEOを務めた。5年間の任期で、歳入を2倍に増やし全米第3位の規模に押し上げた。その実績を引っ提げ、小東京にやってきた。
 館長は、羅府新報の取材に応じ、立て直しに意欲を示した。就任時の赤字は550万ドルの予算に対し50万ドルだったが、今は黒字に転じたという。「小東京コミュニティーの中で、少数民族としての博物館と文化施設を両立させた新しいビジョンを示さなければならない」と意気込む。
 芸術と文化を結びつけているMOCAやシアトルのウイング博物館、LAのスカーボール文化センター、ゲティーセンターなどの運営を模範に改善に務めているといい、プログラムを充実させ、来場者を増やす構えを示す。
 20、30代の同館メンバーがほぼ皆無だと指摘。若者を取り込もうとし、Jポップカルチャーの紹介や有名な黒人ラップグループなど各アーティストとのコラボボレーションを考案。運営資金の寄付は、スターバックスなど米大手企業から募る。博物館内に限っていたグッズ販売は他と提携し、LA国際空港やMOCA、ピーターセン自動車博物館などで売られている。
 各種展示を充実させ、来年は「ドジャース」展と「タトゥー」展を開催予定。野球展では、地元の各民族コミュニティーの英雄である日本の野茂、韓国のチャンホ・パク、メキシコのバレンゼーラ、白人のコーファックス、黒人のロビンソンの存在感は依然大きいとし、新企画に自信を示す。入れ墨は、日本では印象がよくないが「(米国では)鯉の入れ墨はアートであり、白人にはハローキティーを入れたりしている人もいる」と説き、どちらも日系の外から来場を呼び込む考えだ。
 日系社会に新風を吹き込む一方で、古風な一部からは、新館長の変革に不満の声が上がっているが、就任してまだ7カ月しか経たない。「学びながら実行している。リトルトーキョーですばらしい職を見つけ幸運だ。博物館を10年、50、100年後まで発展させたい」とし、 ニューリーダーの活躍に期待が込められる。【永田潤、写真も】

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