南加地区には日本全国津々浦々からやってきた日本人が数多く在住し、それにともない故郷の正月の味も異なる。
お雑煮に入っている餅の形も各地で違う。一般的に東北地方から関東地方、中部地方までが角餅を使用。一方、関西・近畿地方、中国地方、四国、九州は丸餅を使用している。また餅を焼いてから雑煮に入れる地域と、そのまま入れて煮る地域とでも分れる。
だしに関しても、すまし汁の地域もあれば白味噌仕立ての地域もあり実にさまざまだ。
今回はロサンゼルス在住の日本人4人に、特に特徴のある日本の故郷の「お雑煮」を再現して頂いた。
米国で生まれ育ったため先祖の故郷の正月の味を知らない人も、また在米年数が長くなり、お雑煮を作らなくなってしまった人も、これを見て故郷の味を作る良い機会になってくれたらうれしい。協力して頂いた4人の故郷の味を、北から南へ順番に紹介していく。 【吉田純子、写真も】
鮭といくらが入った豪華版
新潟県代表 松村都さん
塩鮭を使用し、いくらはトッピングとして仕上げに添える。地域によっては汁と一緒にいくらを煮込むところもあるという。
下越地方では鮭の内臓を取り出して粗塩をまぶし鮭のうま味を凝縮させた伝統的な製法で作る新巻鮭が名物。塩鮭といくらの塩味がだしにいきているため、味付けはいたってシンプル。醤油を少し加えるだけで十分だ。
角餅、大根、ごぼう、にんじん、里芋、こんにゃく、焼き豆腐、白菜、いくら、だし汁(4人前で4カップ、松村さんはいりこだしを使用)、塩・醤油少々。
作り方
1、材料を写真のように切る。大根、こんにゃく、塩鮭は短冊切り。ごぼうは千切り。にんじん、里芋はまわし切り。白菜は4センチくらいに切る。
2、大根、ごぼう、にんじん、里芋、こんにゃくをさっとゆでる。
3、鍋にだし汁と白菜と2を入れて煮る。
4、材料が柔らかくなったら塩鮭を入れて、塩と醤油で味をととのえる。
5、餅を焼き、焦げ目がついたら4に入れ、一緒に煮る。
6、お椀に5を入れ、いくらを加えたら出来上がり。
新潟県の中でも地域によって食べられているお雑煮は違う。松村さんの祖母は上越地方出身で、ゼンマイや油揚げ、根菜などが入ったお雑煮を作っていたという。ほか、おせち料理にクワイを使った料理を作る地域や、干したゼンマイをお雑煮に入れる地域もあったという。
正月の過ごし方
松村さんの実家では大晦日からおせち料理を食べ始め、年越しそばを食べながら元日を迎える。家族で初詣に行くのが毎年恒例の正月の過ごし方だったという。
白味噌仕立てでまろやかな味
関西地区代表 佐藤厚子さん
材料(写真参照、写真は1人前の分量)
丸餅、だし汁(4人前で4カップ、佐藤さんは利尻昆布とかつおのだしを使用)、金時にんじん、細大根、ほうれん草、里芋、白味噌(4人前4カップに対し120グラム)
作り方
1、 金時ニンジンと細大根はあくがでるので、だしであらかじめ煮て下ごしらえをする。
2、 ほうれん草も下ゆでしておく。
3、 里芋は薄口醤油を加えたお湯で煮ておく。
4、 だし汁に1、3を入れ、白味噌を加えたら丸餅を入れて煮る。
(つきたての餅ではない時は、まず沸騰した湯で餅を煮て、柔らかくなってきたら4に加える。直接4に入れると餅が柔らかくなるまでに時間がかかり、その間に餅が崩れ、汁がドロドロになってしまうため)
6、 最後に香り付けに柚子を添えると白味噌の味が引き立ち、なお美味しい。
今回、佐藤さんは関西地方のおせち料理の一部も再現してくれた。故郷の実家では毎年、煮豚と丹波の黒豆の煮物、さらに穴子が有名な地域でもあるため、焼き穴子を使ったちらし寿司をおせち料理として必ず食べていたという。
また関西地方全域では黒豆の煮物に丹波の黒豆を使っていたという。
佐藤さんは在米約25年になるが、米国にいても毎年必ず関西風のお雑煮と手作りのおせち料理を家族で食べるといい、米国でも故郷の正月の味を毎年再現している。
小豆と岩のり入りの2種類
島根県代表 はせがわいずみさん
また出雲の平野部全般、奥出雲近辺では、昆布とかつおだしに醤油で味付けしただし汁に丸餅を入れ、岩のりをかけるお雑煮が食べられている。
特に出雲市平田地区の十六島(うっぷるい)湾周辺の岩場ではその地区の名産品「十六島のり」がとれ、シンプルながらのりの香り引き立つ味わい深いお雑煮が食べられている。
十六島のりは紫色がかった黒につやが加わり、香りも上品で、最高級の岩海苔といわれている。
材料(写真参照、写真は1人前の分量)
岩のりを使用したお雑煮
丸餅、十六島のり(なければ普通の岩のり)、だし汁(昆布でとる)、塩・醤油
小豆を使用したお雑煮
丸餅、小豆、砂糖
作り方
岩のりを使用したお雑煮
1、昆布でとっただし汁を塩、醤油で味付けする
2、丸餅を別の鍋で茹でる
3、2の餅を椀に入れ、1のだし汁をかける
4、岩のりをたっぷりまぶして出来上がり
ぜんざい風の小豆雑煮
1、ぜんざい風に小豆を煮る
2、丸餅を鍋で茹でる
3、椀に1と2を入れて出来上がり
島根県は大豆や米がよくとれ、はせがわさんの実家では味付けにも島根県の大豆から作られた醤油を使用。餅も島根県産のもち米から作った餅を使って食べていたという。
餅が入らない祝いの一品
沖縄県代表 新島ナンシーさん
これを汁物の中に入れると形が崩れ、溶けてしまうため、古くから雑煮が食べられていなかった。
代わりに祝いの日には、豚肉の内臓と野菜を入れた中身汁や、イナムドゥチが食べられている。
また家庭によって中身汁かイナムドゥチか分かれるという。
今回は沖縄料理研究家として南加地区で活躍している新島ナンシーさんに沖縄県で正月に食べられているイナムドゥチを作って頂いた。
イナムドゥチとは
沖縄の方言でイナはイノシシ。ムドゥチは「もどき」で、イナムドゥチは「イノシシもどき」という意味になる。
昔はイノシシの肉を使ったことからこの名前が付き、後に豚肉で代用するようになりイナムドゥチになったとも言われている。
豚三枚肉、かまぼこ、もどした干し椎茸、こんにゃく、合わせだし(豚だし半分、カツオだし半分)、白みそ
作り方
1、豚肉の油抜きをする(豚肉を茹で、冷ましてから短冊切りにする。塩をふってしばらくおき、再び茹でた後、水洗いしてザルにあげる)。
2、材料をすべて短冊切りにし、こんにゃくはさっと茹でておく。
3、鍋にだし汁を入れて火にかけ、かまぼこ以外のすべての材料を入れる。白みその半量を溶き入れて中火でしばらく煮る。
イナムドゥチは正月以外でもめでたい日や祝いの席などで食べられている。
家庭で作る場合は干し椎茸をもどした戻し汁をだしとして使っても美味しく頂けるという。
さらに沖縄ではシカムドゥチという料理もあり、醤油ベースで、牛肉を使ったものだという。
正月には縁起物を
お雑煮の具材の意味
雑煮に入れる具材も各地で違い、その土地の特産物を使うケースが多い。また正月に食べることもあり、中に入っている具材には縁起ものを使うことが多い。
良く用いられる具材のひとつに里芋がある。里芋は子芋がたくさん付くことから、子宝を願って食べられている。
また関東地方などではくわいを入れる地域もある。くわいは大きな芽が出ることから「めでたい」を意味し、「芽が出る=出世」を祈願して食べられているという。
日本各地の珍しいお雑煮
日本各地には甘いくるみだれやきな粉、あん餅などを用いたお雑煮もあり、これは甘いものが貴重だった時代の名残りと考えられている。
醤油ベースや白味噌仕立てのお雑煮に甘いものの組み合わせは意外にも合うという。その中のいくつかをここで紹介する。
岩手県のお雑煮
くるみだれを付けて食べる
煮干しでとった醤油ベースのだし汁に焼いた角餅、具は大根、にんじん、せりなどを入れる。そして食べる時、餅はお雑煮から取り出し、くるみを擦ったものに砂糖や醤油で味付けした「くるみだれ」を付けて食べるという。
奈良県のお雑煮
甘いきな粉を餅に付けて
白味噌仕立てで餅は丸餅を使用。焼かずに煮る。具は大根やにんじん、豆腐のほか、人の頭になるようにとの願いを込めて頭芋を入れる。
奈良県ではお雑煮に入っている餅を砂糖入りのきな粉に付けて食べるという。きな粉の黄色は、米の豊作と家族の健康、子孫繁栄えを願っていると言われている。
香川県のお雑煮
あんこ入りの丸餅使用
香川県では「あん餅雑煮」が食べられている。白味噌仕立ての汁に中にあんこが入った丸餅を入れるという何とも珍しいお雑煮。
具材は大根、にんじん、里芋などで最後に青のりをふって頂く。
あん餅雑煮が食べられるようになったのは江戸時代末期から明治時代に入ってからと言われている。当時貴重だった砂糖を正月だけでも食べたいとの思いから作られるようになったという。
取材後記
このように南加地区では日本各地さまざまな地域からやってきた人が、それぞれの故郷の正月の味を再現し、正月を祝っている。米国で生活している人々にとって、故郷の味は作らなければすぐに忘れ去られてしまうもの。これからの世代のためにも、米国にいても故郷の正月の味を守り、忘れずに伝えていってほしいと取材を通して思った。
