7月12日夜、ドジャースタジアムで、米国歌をうたった。プロでもない。有名でもない。素人混声合唱団、OCFCに幸運にも頂けた一生一度の僥倖(ぎょうこう)だった。
ドジャーズ対コロラド、ロッキーズ戦。この日はジャパンナイトと銘打ち、祭り太鼓が球場に響き、二世クイーンが紹介されもした。
晴れ舞台に団員25人は猛練習を繰り返した。今までうろ覚えだった歌詞の意味、歴史を勉強し、暗唱した。この国で生計を立て、子供を育て、社会人としての務めを果たせる幸運。感謝の気持ちを精一杯歌に託したい。アメリカ国旗の三色は赤は勇気、白は真実、青は正義を象徴しているという。女性は胸にその三色のネックレスをかけた。
マイクリハーサルをしていると、前会長のラソーダ氏が歩いてこられた。彼は55年前の訪日以来、大の親日家である。当時の会長補佐、アイク生原氏の献身もあり、巨人軍にキャンプ地を提供し、野茂選手をかわいがり、日本野球を応援してくれた人。なんと一緒に国歌を練習してくださったのである。勇気百倍とはこのことか。
いよいよ、本番がきた。
「Oh, say, can you see」
球場の広い芝を渡り、はるかかなたの星条旗に向かって、男声女声4部のハーモニーが流れ始めた。夏の夕の清冽な空気が球場の上に広がっていた。実に晴れやかな心持ちだった。歌声よ天まで届け。
「O’er the land of the free and the home of the brave?」
クライマックスに達すると、6万人の観衆の怒涛のような歓声があがった。嬉しいミッションが完結したようだ。合唱団の顔がほころぶ。
その直後、身も震えるような光景を見た。セキ、オガワ、サメシマ3氏による始球式だ。彼らは米陸軍史上最強の442戦闘部隊の生き残りだ。車椅子から歩いてグラウンドに立たれた。3人のキャッチャーにむけてボールを投げた。うわー。まっすぐに届いたのである。90歳近いはずだ。長い涙の移民史があって、今のわれわれがある。敬愛する彼らと同じグラウンドに立てた。鳥肌が立った。
自由と勇気の国アメリカ。国歌の歌詞がもう一度、脳天をうった。【萩野千鶴子】