先月、LA郡立ミュージアム(LACMA)で20世紀最後の巨匠と謳われた映画監督スタンレー・キューブリックの回顧展を見に行った。あらゆる作品の衣装、小道具、カメラ、監督直筆のノートなどが展示され、ギャラリーは感嘆と熱気に包まれていた。
 高校生の時に見た「時計仕掛けのオレンジ」は、腐敗したロンドンを背景にした若者たちの暴力の描写に度肝を抜かれた。「シャイニング」では、ジャック・ニコルソンの狂気の世界に震え上がった。
 映画を学ぶ者として彼の作品は最高の教材だ。分析すればする程、果てしない芸術への追求、深層心理の奥深さを感じる。
 「2001年宇宙の旅」は、難解だが、衝撃的な映像と音楽に感銘した。撮影当時、実際に使われたモノリス(進化する文明への扉で神的存在を象徴した「黒っぽい石板」)をこの会場で目の前にした時は、恍惚状態になった。
 特筆すべき事柄をまとめる。
○ニューヨーク生まれのアメリカ人だが、初期の作品以降はイギリスで製作し、その後ロンドン郊外に移住。
○高校卒業後、5年間「ルック」雑誌のフォトグラファーとして勤務。
○医者の父親から教わったチェスが好きで、よくシーンに使われる。
○プロダクション・デザインでシメトリー(左右対称)の構図がよく設定される。
○「鉄腕アトム」のファンであり「2001年宇宙の旅」の美術監督として手塚治虫に依頼したが断わられた。
○赤色を印象的に使う。
○仮面や濃いめのメイクをよく使う。
○クラシック音楽をよく使う。
○2年掛けて準備していた「ナポレオン」を作りたがったが、実現できなかった。スピルバーグ監督が意志を継いでTVシリーズ化する予定。
○アカデミー賞の監督賞を一度も受賞したことがない(ノミネートは4度ある)。
○ホラー、SF、歴史物、コメディー、戦争物などあらゆるジャンルの作品を作る。
 惜しくも1999年に70歳で亡くなったが、彼の遺産は永遠に伝え続ける。1時間程で見て回る予定が、気がついたら4時間もかかってしまった。キューブリックの魅力である。【長土居政史】

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