「失ってしまったものではなく、残されたものにフォーカスを置いて前向きに生きていこうと決めた」
 そう話してくれたのは、不慮の事故で頸椎(けいつい)を損傷し、両肩から下の運動機能が麻痺してしまった30歳の日系人男性。事故から1年が経った今、彼は日々リハビリに精を出し、一日一日を力強く生きている。
 昨日まで「動いて当たり前」「あって当たり前」だったものを突然失い、計り知れないほどの不安に襲われたに違いない。そんな状況からここまでたどり着くことができたのは、「落ち込む時間を与えてくれないほど、毎日献身的に助けてくれる家族や友だちがいるから」だそうだ。
 24時間付きっきりで介護してくれる母親や、リハビリに付き合ってくれる友人、事故前に飼っていた大型犬を引き取って世話をしてくれる友人らに加え、中でも彼を精神的に支えているのは、今日という貴重な一日を前向きに過ごせる気持ちにさせてくれる、友人からのメールだという。その友人は、事故以来一日も欠かすことなく、毎朝、彼に励ましのメールを送り続けている。
 「あまり先のことを考えすぎると不安になる」という彼にとって、この「今日一日の大切さ」「今あるものに対する感謝の気持ち」を再認識させてくれるメールの存在は大きく、これらがなければとっくの昔に諦めていたと言い切った。
 精神的に落ち込んでいる時、「諦める」という選択肢を選ぶ方が楽な場合が多い。しかし彼は、諦めることは今以上に周りの人に迷惑をかけてしまうと思った。そして、体が動かない自分にできる恩返しは何かを考えた結果、「リハビリに励み、少しでも良くなること」だった。
 次から次へと新しい物や情報が発信される現代、手元にある「当たり前」に感謝することが少なくなった。今回の取材を通じ、サポートを続ける友人の心の温かさ、またそれに応えようと努力する彼のパーソナルストーリーに触れ、あらためて、それらに目を向ける大切さに気付かされた。【中村良子】

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