大リーグの選手は、来季の契約を速やかに済ませ、クリスマスは、シーズン中離ればなれになる家族とゆっくりと過ごしたいものだ。だが、今年は移籍市場に異変が起こり、やきもきしている。その原因は、去就に注目が集まる楽天の田中にあるという。有力数球団が、この大物獲得を狙っているため、他の主力選手との契約をためらっているのだ。
 松坂、ダルビッシュの入札額は、ともに5000万ドルを上回った。田中のそれは2人を超えると予想されたが、新入札制度の合意寸前で日本の選手会が「待った」をかけてしまった。全球団と交渉できる要求は認められたものの、移籍金の上限を2000万ドルに抑えられた。入札額の高騰を嫌った米側にとっては、「渡りに船」の申し出だったに違いない。交渉が暗礁に乗り上げ、代表がニューヨークに飛び、再交渉後に発した驚くべき言葉は「(大リーグの)3者(金満球団、貧困球団、選手会)を満足させる案を作ることは非常に難しいことが分かった」。「今頃分かったのか」と悲しく思った。
 今回もまた交渉に長けた米側の術中に、はまった感じがしてならない。選手会は今春行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも、配当金の少なさを不服とし、出るの、出ないので揉めに揉めた挙げ句の果てに出た。「どうせ、出るから」と米側は、先刻お見通しで、日程を組んでいたのだろう。「世界王者」などと、おごった侍は、「3連覇」の掛け声は虚しく散った。野球に限らず、交渉事では軽く見られてはならず、日本は教育が必要だ。
 田中の楽天は、岩隈の挑戦を容認したように、選手の米移籍に寛容な球団だ。だが、田中が抜けるとなると、その大きな穴埋めは至難の業。戦力の大幅ダウンは言うまでもなく、収入面でも多大な損失が出るは明らか。計り知れないなどと表現されるが、経済学者が試算したところによると50、60億円に上るという。入場料、グッズの売上げ、飲食代、コーマシャル料、放映権などが大幅に減るのだ。移籍金の20億円では到底埋まるはずがない。
 ファンとしては、現役生活の短い野球選手の意志を尊重したい。しかし、さまざまな思惑が絡んでいる。大リーグ挑戦、残留のいずれにせよ、この稀代の大投手はこれからも輝き続けることは間違いない。【永田潤】

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