一般論で言えば、「Donation」(寄付)にしても「Volunteer」(奉仕)しても提供する相手次第なところがある。主義主張が違ったり、敵対するものに対して、無条件で出来るものではない。10人中7、8人が敵視するものに分け隔てなく出来るものではない。世間体もある。
 ここに一枚の写真がある。
 1942年、強制収容所に向かうパサデナ発の列車に乗り込んだ日系人たちに窓越しに朝食を差し出す白人女性たちが写っている。
 彼女らは、「戦時中、日系人に寄り添ってくれた数少ないアメリカ人」といわれたキリスト教プロテスタントの一派、キリスト友会(フレンズ、通称クエーカー)教徒たちだ。
 排日の嵐が吹き荒れる中、仕事も財産も夢も奪われ、絶望と失意の中で旅立つ日系人たちにとって暖かいコーヒーや焼き立てのロールがどれほどありがたかったか。察するにあまりある。クエーカーの奉仕活動は、日系人が収容所に入れられた後も続く。子供たちへのクリスマス・プレゼント、高校を卒業して大学に入ろうとする二世への奨学金等々。
 それだけではない。戦後は日本への食糧支援活動(LARA救援物資)の先頭に立ったのもクエーカーだった。日本だけに留まらない。戦後のドイツに対して、戦火のベトナムに対して、そして現在では飢饉に苦しむ北朝鮮に対しても食糧支援は続けられている。
 最初に奴隷解放運動を繰り広げ、女性の権利を訴えたのもクエーカーだ。すべての戦争に反対する平和主義は教会設立300年たった今も脈々と受け継がれている。
 ともすれば、断片的にしか伝承されていないクエーカーの人たちと日系人の絆。その「裏面史」が世に出た。膨大な資料と関係者とのインタビューをもとに書き上げた力作である。
 著者は、東洋宣教会・北米ホーリネス教団オレンジ郡キリスト教会の牧師で、クエーカー研究家の杉村宰さん。タイトルは「Quiet Heroes」(静かなヒーローたち)。前述の写真は、本書に挿入されていた「歴史の瞬間」をとらえた貴重な一枚である。【高濱 賛】

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