「人間は、年を取るとみんな円熟する。それなりに知的能力も向上するし、成長していく。大丈夫よ、光ちゃんにも必ず『その時』がやってくるから」
障害児を育てる先輩たちから笑顔でそう言われたのは、晶子さんの愛娘、光さんが知的障害のある自閉症と診断を受けた20年前。当時、自閉症はまだ広く認知されておらず、知識も、情報も、公的支援もなかった。晶子さんにとって唯一の救いが、この力強い「経験者の声」だった。
米疾病対策センター(CDC)が今年5月に発表した調査結果によると、全米で自閉症と診断される子どもは68人に1人。その数は、この10年で2倍以上に増えた。障害の認知度も上がり、公的支援も得られるようになった一方で、その原因はいまだ解明されておらず、自閉症児を育てる親の不安は消えない。
じっとしていることができず、四六時中つま先立ちで走り回る日々。社会性がなく、人とアイコンタクトや会話ができず、世間から白い目で見られた日々。夜もほとんど寝てくれず、娘と2人で長い夜を過ごした日々。「この状況は一体いつまで続くのか…」と不安に襲われるたび、晶子さんは先輩からの言葉を支えに、前に進み続けた。
あれから20年。わが子の幸せと自立を思い、たくさんの愛情を注ぎ、できる限りのことをしてきた。そしてついに、晶子さんも先輩に言われた「その時」を迎えたのだった。
光さんが幼少期から描き続けていた絵の才能が多くの人の目に止まり、来年6月に加州立大学ロサンゼルス校で個展が開かれることになった。また、同校のMLKホールに、光さんの壁画が永久的に展示されることも決まった。
20年前には想像もできなかった光さんの自立の一歩を目の当たりにし、「先輩の言葉を信じ、わが子の障害を個性として受け入れ、前向きに頑張ってきてよかった」と振り返る。そして今度は、「大丈夫。必ず『その時』はやってくるから」という晶子さんの声で、多くの後輩お母さんたちを支えていくことだろう。【中村良子】