7月7日は七夕。日本各地で七夕祭りが繰り広げられたことだろう。「星に願いを」ではないが、望みごとを書いた短冊を笹に結びつけた遠い昔を思い出す。笹には精霊が宿るとか。いつか願いが叶うように。そう祈って風にゆれる短冊を見上げたものだ。
日本には3月3日、ひな祭り、5月5日、端午の節句と、四季折々の行事があり、なんと情緒ある民族であるかと、いまさらながらに感心する。はっきりした四季があり、天候で生活が劇的に左右された農耕民族の歴史的背景ゆえだろう。うっとうしい梅雨があけた後は、初夏のすがすがしさがことさら愛おしかった。
頭の隅にその七夕を思い出しながら、米国での夏の風物詩を楽しむ。夏には当地でも催し物がめじろ押しだ。せっせと出かけなければ、宝の持ち腐れというもの。
7月6日は2カ月続くラグナビーチのアートフェスティバルの幕開けだった。例年、夕陽が水平線に沈む頃、賑やかなバンドの音とともに始まるこのガラは、全米からの観光客でごった返す。毎年テーマがあり、今年は探偵。集まった人々は黒の帽子をかぶり、シャーロックホームズの世界である。アメリカ人は皆で服装を合わせる遊びの天才である。
300人以上のアーティストは1年かけた新作を熱心にアピールする。彼らは時代の空気を敏感に感じ取り、作品に反映する。作品は美しいだけではない。美の奥に作者の思考や、感覚や、批判が込められていて、考えさせられる作品も多い。お祭り騒ぎを横目に作品は独立した一個の人格のように何かを主張して香っている。
その前に立つと、一日の疲れを癒してくれる水彩画、味わった屈辱を昇華させてくれる彫刻、エネルギーが湧いてくる挑発的なコラージュ、生きる喜びがあふれる油絵。アートは生きる意味を深く考えさせ、豊かにしてくれる。
アートで身を立てようとする人たち、彼らの仕事に共感する支持者たち、作品を買うことで、実際に彼らの生活をサポートする富裕層。三者が出会う真摯(しんし)な場でもある。
願いも、願い方も、東や西で違ってはいても、願う心はいつの世もかわらない。【萩野千鶴子】