米国日系社会の高齢化も進んでいる。日本総務省統計局が発表した２０１０年の国勢調査によると、日本における65歳以上の人口は23％で、世界トップ。一方、全米アジア系高齢者センター（ＮＡＰＣＡ）が同年の米国勢調査を元に作成した資料によると、65歳以上の日系米国人も日本と同じ23％で、フィリピン系の11％を上回りアジア系でトップだった。
【中村良子、写真も】
需要高まる日系ＡＬ
多様性ある米国では、文化、食生活、宗教などを考慮したアシステッド・リビング（ＡＬ）の需要が高まる。
20年以上前からオレンジ郡でＡＬ「ＪＰシニアホームズ」を運営する沖縄県出身のマキ・シグリストさんは、夫のジムさんと、ラグナヒルズとミッションビエホに計６軒のＡＬを運営。36人の居住者（９割が日本人）と、日本語を話す３人を含め計20人の従業員がいる。
日本人の居住者がいるＡＬでは、夕食は日本食を提供。お米とみそ汁、お茶漬けが常備してあるほか、フィリピン人の従業員は週３日、日本人スタッフから日本食の作り方を学ぶとともに、「食べる？」「おいしい？」「飲み込んで」「ゆっくり」「痛い？」など、重要な単語も学んでいる。
ＡＬには、健康状態に関係なく、60歳以上であれば入居可能。アルツハイマー病やパーキンソン病などと診断され、ソーシャルサービスの許可がある場合は60歳以下でも入居できる。栄養チューブ（Feeding tube）を除き、透析や尿道カテーテル、経腸栄養用チューブ、パーキンソン病、アルツハイマー病、糖尿などといった病気に対応できる。また、ドクターやレントゲン、ヘアスタイリスト、エクササイズのインストラクターなどが自宅に来てくれるサービスもある。
最大６人の居住者を受け入れる一軒につき、従業員は２人から３人で、そのほとんどが住み込み。ＪＰシニアホームズでは、他の居住者の迷惑にならなければ、犬や猫、鳥など小さなペットも認められている。また、クリスマスには居住者の家族を招待したパーティーが行われ、毎年１００人以上が、沖縄の民謡「カチャーシー」やフラダンスなどを楽しんでいる。
人と人の触れ合い
20年以上にわたり、さまざまな健康状態の居住者と触れ合ってきたマキさんは、居住者の「安全」「食事」「幸せ」の３点を大切にする。掃除や洗濯、ベッドメイキングや日本の風習などは、マキさん自身が従業員に指導する。
もっとも大切にしているのは「居住者に対する優しさ」といい、「掃除や洗濯などは教えてあげられるけれど、優しさは身をもって学ばなければ分からない。食事の食べさせ方ひとつとっても、従業員同士で食べさせ合い、食べさせてもらう人がどの程度のスピードで食べるのかなど、身をもって体感してもらっている。こうすることで、相手の立場に立った介護ができる。従業員には、『自分の家族だと思って』と伝えている」
多くのアルツハイマー病患者らを看取ってきた経験から、「進行状況は個々によって異なるので、居住者一人ひとりの個性や性格を大切にしてケアすることを心がけている。従業員にはマニュアルではなく、人と人との触れ合い、人とのつながりの大切さを指導しています」という。
「まずは相談して」
ＡＬは高いイメージがあるが、ひと月に一体いくらかかるのか。ＪＰシニアホームズの場合、シェアルームで月３３００～４０００ドル。プライベートルームの場合は、月３５００～４５００ドル。それぞれおむつ、薬の投与などは別途かかる。
これら費用は、長期ケア保険（Long Term Care Insurance）からほとんどがカバーされる。居住者の筒井完一郎さんもその１人だ。「若いうちにかけておけば、掛け金もさほど高くない」といい、保険のありがたみを感じていると話した。
また、ＪＰシニアホームズでは、生活保護受給者や低所得者用の枠（支払い能力に応じて金額変動）が３人分用意してあり、「身寄りがなくて将来が不安な人など、どうか１人で悩まないでほしい。何か手助けができると思うので、まずは気軽に連絡して」と話す。
実際、入居後に財産が尽きてしまい、支払いが滞った居住者を無料で最期まで看取った経験もしてきた。「この事業は、人助け、思いやり、人とのつながりを大切にする気持ちがなければ続かない」。マキさんの次の夢は、沖縄の高齢者を助けること。すでに２・５エーカーの土地を購入し、９人収容可能のRosehill Homeを建設、今はそのオープンを待っている。
JP Senior Homes
25032 Woolwich St.
Laguna Hills, CA 92653
949-637-6660
www.jpseniorhomes.com