今月初め、「大型で強い」という台風18号を、高知の海辺の家で迎えることになった。
 台風接近を伝えるニュースに、義父は一日がかりの準備を始めた。戸外にある物はすべて屋内に取り込み、庭の枯葉などもきれいに取り除く。樋を点検し、壊れている箇所を修理する。最後に、日頃使うことの無い家中の雨戸をガラガラと引き出すと、室内が一挙に暗くなった。
 台風が来るまでの間、義父が語り始めた。
 「ぼくらの子供の頃は、台風は本当に怖いものだった。床下を抜ける風で畳が浮くし、雨戸が飛びそうになると大人も子供も内側から必死に押さえておかなきゃならん。そして雨戸が一枚でも飛ばされると、今度はすぐに反対側を開けて風の抜け道を作った」「瓦が飛ぶと、家の中が雨でぐちゃぐちゃになっておおごとで」「強風で木が家を壊すかもしれんから屋根より高くなる木は敷地内には植えなかった」。祖母は、台風を切るんだと言って鎌を竹竿の先につけて掲げることさえしていたという。
 「けんど…」と話は続く。「そんな台風はこの数十年、来てない。昔は高知が台風の上陸地となることが多かったけど、今は違う。もし来ても、家は昔と比べていろいろ補強してるから、被害は少なくて済むと思う」「それでも、台風の怖さが身に染みているぼくらは、台風が来ると聞けばその構え(準備)をせんではおられない…」
 一日中ニュースを気にして過ごすうちに、「大雨・暴風・波浪警報」が発令された。台風到来は未明との予報を聞いて床に就いたが、海上を抜けたらしく、夜中に雨音を聞いたものの風は感じないまま。朝目覚めると義父はもう、「浜風の汐で錆びるから」と、これも台風の時にだけ閉めるシャッターをせっせと雑巾で拭いていた。
 「台風が沖を通る時はこんなものよ」と義父。「台風の構えは、片づけるのも時間がかかる」と言いながら、樋を再び点検し、雨戸を順に外していく。風で落ちた柿の実も拾い寄せ、半日かけて片づけは終了。台風一過の青空が広がってまた穏やかな秋の一日が戻り、長年台風と生きて来た土地での行事が終わった。【楠瀬明子】

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