青空が売り物のロサンゼルスであるが、ここ数日ストームが来て連日の雨に見舞われた。一部の地域で被害が出たが大事に至らなかったのは幸いだ。
 冬は雨模様になる日が多い。とはいえ、当地はその日は数えるほどに少ない。それ故、たまの雨に着物が濡れても、乾いた気持ちも濡れて潤うから嫌いではない。温暖な気候に恵まれ、あっけらかんと過ごした一年だが、雨のおかげで内省的な気分で一年を振り返る良い機会だ。
 最近は友人、知人の突然の訃報を聞くことが多くなった。命の終わりはいつも寂しいものだが、とりわけ若い人の訃報には心が痛んだ。夫と子供、一緒に暮らしていた老母を残して亡くなったから。家族の悲しみと娘を見送る老母の心中は察して余りある。
 反対に、気分が高揚する知らせもあった。仕事一筋だった後輩が米国人と結婚した。二人とももう若くはない。それなのに妊娠手術を受ける決心をしたという。昔は子供を産むには33歳までが適当と言われていたが、医学の発達した今は高齢でも低リスクで出産できる。「子供なしでは自分にとっての人生が完結しないから、やってみる」と。彼女は確か今年50歳になったはずだ。やるね、と思う。
 お産を経験した女性なら誰でもわかるが、陣痛の痛みは例えようがない。内臓が張り裂け、身体が内部から爆発しそうな痛みが襲ってくる。過去に経験したことのない極限の圧迫感にもしかしたら死ぬかもしれない、と震えた妊婦もいたはずだ。事実死ぬこともある。新しい命を生み出す時、母体は死と背中合わせである。女性はそれを身体で知る。
 その上、たとえどんな子供が生まれてきても全てを引き受ける。産んだのは自分だから、と決心することでもある。
 覚悟して死ぬという仕事。覚悟して産むという仕事。どちらも考え抜いた静かな勇気がいる。
 庭の草花は雨にうたれて頭を深く下げている。太陽が雲間から顔を出しはじめた。やがて濡れそぼった花々は頭をあげ、眩い太陽を仰ぐだろう。
 降って良し、晴れて良し。師走はやはり一年の総まとめの時である。【萩野千鶴子】

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