日本のプレミアムビールで米国で勝負するキリン・ブルワリー・オブ・アメリカの山田崇文社長
日本のプレミアムビールで米国で勝負するキリン・ブルワリー・オブ・アメリカの山田崇文社長
キリン・ブルワリー・オブ・アメリカ社長
山田崇文さん

 ビール大国アメリカ。数あるビールブランドがしのぎを削るなか、日本のプレミアムビールで勝負に挑む会社がある。キリンビールブランドを米国で展開するキリン・ブルワリー・オブ・アメリカ社だ。同社に2011年5月に赴任し、主力商品「一番搾り」を紹介し続ける山田崇文社長に米国での挑戦を聞いた。【取材=吉田純子】

「一番搾り」で勝負
米大手ビール会社と提携

 キリンビールの米国進出は約30年前にさかのぼる。当時オフィスはニューヨークにあり、日本からビールを輸入し販売していた。90年代後半に拠点をロサンゼルスに移し、以後、当地から全米に向け事業展開している。
 現在、キリンビールはバドワイザーなどの主力商品を抱えるアンハイザー・ブッシュ社と提携している。米国で展開されている「一番搾り」と、カロリーを抑えた「キリンライト」は、アンハイザー・ブッシュ社がライセンスを受け製造、販売している。
 西はロサンゼルス、東はバージニア州ウィリアムズバーグの工場で生産され、全米各地に出荷。ロサンゼルスにはバン・ナイズに工場があり、そこで作られたビールは、全米の西半分とハワイに出荷される。
 ビールは鮮度が命。出来たてが一番おいしい。当地ロサンゼルスでは、製造されたばかりのビールが店頭に並ぶ。

 同社が米国で展開する(左から)「キリンライト」、「一番搾り」、「キリンフリー」

同社が米国で展開する(左から)「キリンライト」、「一番搾り」、「キリンフリー」
 キリンが米国で展開しているのは「一番搾り」、「キリンライト」のほか、日本から輸入しているノンアルコールの「キリンフリー」の3種だ。
 「キリンライト」は95キロカロリー、アルコール度数3・2パーセントのビールで、通常のビール(1本あたり約140キロカロリー)より大幅にカロリーをカットした。米国では高級寿司レストランに来る白人や、健康志向の人に好まれているという。
 主力商品は「一番搾り」。一番搾りは、ビールの原液を最初に作り、麦芽やホップの種、実などが入っている原液をろ過し、最初に流れ出た麦の汁「麦汁」だけを発酵させて出来たビール。
 普通はかすが残り、そのかすの中にあるエキスに湯をかけてエキスを搾りだし、酵母を入れ発酵させて作るが、一番搾りは、最初に流れ出たクリーンなものだけを使って作る。
 同社の商品が一番売れる州はカリフォルニア。都市ではロサンゼルスだ。
 日本のビール市場では、暑さが増す夏に売り上げが伸び、冬場落ち込むが、ロサンゼルスは気候が安定しているため冬でもビールは売れる。
 また冬に熱燗や焼酎のお湯割りなどにスイッチする人が多い日本と比べ、米国ではアルコールを温かくして飲む習慣がない。米国では「夏がビールの季節」という概念がないそうだ。

切り札は「ファーストプレス」
ビールに合う料理も提案

 「当社のブランドは日本では多くの方に知っていただいていますが、米国では認知度が低い。『キリンのビールです』と言っただけでは売れません」と話す山田社長。営業活動をする際も、日本のプレミアムビールということだけを伝えるのではなく、いかにビール本来のおいしさを理解してもらえるかに重点をおく。
 日本食やアジア系の料理など、どんな料理に合うかも提案し、少しずつ広める営業活動を展開する。
 「米国の消費者は合理的で、納得すれば先入観無く買ってくれます。そういう意味ではやりがいあります」。日本でも営業活動を行っていた山田社長によると、日本の消費者の方が長年飲み続けているブランドがあるなど、固定観念がある人が多いという。「(固定観念がない分)米国のほうがハードルが低い。その代わり、買いたくなるプレゼンテーションが必要です」
 一番搾りは英語で「ファーストプレス」。米国人に説明する際は、「最初に流れ出たクリーンな『ファーストプレス』だけを使用し、エキスが残ったかすは捨てる、とても贅沢なビールということをシンプルに伝えます」と山田社長。米国のビールより濃厚で、かつしつこくないため日本食に合うこともアピールする。
 営業活動ではアンハイザー・ブッシュ社の営業担当者と連携し、山田社長自ら出向き、日本食および、アジア系レストランを回ることもある。受け入れてもらえることもあれば、そうでない時も然り。ビール大国の米国で、星の数ほどあるビールブランドの中、勝ち残っていくためには、単においしいというだけでは受け入れてもらえない。ターゲットを絞り、日本食やアジア系の料理ともいかに合うかをアピールすることが必要なのだ。
 また最近では米系のスーパーにも必ず寿司コーナーがある。寿司と一緒に陳列してもらうことで「寿司には日本のビールを」とプレゼンテーションもしている。パートナーであるアンハイザー・ブッシュ社の営業担当者の協力もあり、米系のスーパーでも比較的すぐに置いてもらえるそうだ。

日本食の普及とともに成長
「少しでも多くの米国人に」

 同社の社員は米国に12人。ニューヨーク、フロリダ、シアトルにはホームオフィスで営業活動をする担当者がそれぞれいる。30年前にはニューヨークとロサンゼルスの日本食レストランで細々と取り扱われていた日本のビールだが、今では日本食の普及とともに少しずつ売り上げを伸ばしているそうだ。
 「あまり奇をてらったことはせず、商品の魅力を伝え、当社のビールに一番合う料理を紹介しながら米国の消費者に少しずつ浸透していけたらうれしい。まずは1人でも多くの人においしさを知ってもらわなくては」。山田社長は力を込めた。【後編に続く】

提携するアンハイザー・ブッシュ社主催のビールコンベンションに参加し商品を紹介した山田社長(左端)=13年11月、ミズーリ州セントルイス (キリン・ブルワリー・オブ・アメリカ社提供)
提携するアンハイザー・ブッシュ社主催のビールコンベンションに参加し商品を紹介した山田社長(左端)=13年11月、ミズーリ州セントルイス (キリン・ブルワリー・オブ・アメリカ社提供)

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