日本で現在、新聞各紙が1面で、テレビ・ラジオでもトップで報じるニュースは共通する。過激派「イスラム国」に捕らわれの身の邦人についてだ。2億ドルという莫大な身代金支払いを迫ったかと思えば、女死刑囚の解放に変更するなど、次々に困難な条件を突きつけ、緊迫した状況は今も続く。米国人と英国人が昨年同過激派に殺害されただけに、安否が気になってしょうがなく、新たな動きを確認するため早起きする毎日が続く。
2人の殺害を予告したビデオが、ネット上で公開された。日本では、その動画をコンピュータ処理し、ナイフを見せびらかせる男と人質2人を、おもしろ半分に入れ替えた合成の動画や写真が出回った。ある中学生の3人組は、悪ふざけして、それを再現し寸劇のように演じ、不謹慎過ぎる。
紛争地へ足を踏み入れるのは、危険極まりない。本人は家族、友人の心配をよそに、決死の覚悟で行ってしまった。そして捕まり、国内では「無謀」「あれだけ行くな、行くなと…」「自業自得」、そして「…されても当然」などの声もあった。私も当初これらに同調したが、拘束中の男性の母親の記者会見を見たことで、気持ちは大きく変わった。
「国民と政府に迷惑を掛けた」と、深々と頭を下げて詫びた母。悲痛な面持ちで「息子と交換なら少しも怖くないので、私が代わりになれるなら、喜んでイスラム国の人質になる」などと涙ながらに訴え、母性を感じた。
日本政府は交渉に全力を挙げ、与野党の意見はそのサポートで一致。1人の命を救うために世界を巻き込み、死刑囚を収監するヨルダンと関係諸国も協力を約束した。特に、近年関係の良くない中韓両政府も身を案じてくれうれしい。
この男性はジャーナリストとして、中東やアフリカの紛争地や難民の取材をし、貧困に苦しむ子供たちを励ましたという。日本に帰っては、実体験を綴った子ども向けの本を出版、そして平和の伝道師として学校や児童養護施設を回って講演し、反戦や人権の尊さを教えた。母親は「無事で帰り、世界を回って次の世代の教育のために携わってほしい」と切に願う。同感だ。【永田 潤】