久しぶりに家族一緒の写真を写真館で撮ることになった。
 私は写真を撮るときににっこり笑うのが苦手だ。妻から「表情が硬いわよ」といわれる。今回は娘からも言われた。どうすれば自然に笑えるのか。
 「面白いことを想像すればいいのよ」「写真撮るときにくすぐるから」妻と娘は言いたい放題だ。
 「日本男児はそうニタニタするもんじゃないんだ」と反論するのだが、正直言って、アメリカ育ちの妻や娘が羨ましい。なにか文化とか習慣とかに関係があるのだろうか。
 が、調べてみると、昔はアメリカ人も笑わなかった。写真ではないが、かの有名なグラント・ウッドの絵、「アメリカン・ゴシック」に描かれている鋤を持った厳格な農夫とその娘はニコリともせずに直立不動だ。怒っているような感じすらする。
 ウエブサイトで「When did people start smiling in photographs?」というブログを見つけた。
 それによると、アメリカ人も1900年、コダック社が製造発売したブローニー写真機が登場し、普及するまで笑わなかったらしい。写真を撮るときには数分間はカメラの前でじっとしていなければならない。しかも高価だ。笑ってなどいられないわけだ。
 現に人気作家のマーク・トウェインなどは、「写真とは子孫に残す最も重要なドキュメントだ。撮るときはへらへら笑ったりするもんではない」と地方紙に書いていた。
 ところがコダック・カメラの普及にともない、中産階級の間ではスナップ写真を撮ることが流行になってきた。畏(かしこ)まった記念写真よりもにこやかに笑っている写真の方が好まれるようになったのだ。まさに写真を撮るときには「Say Cheese」ということになったのだ。
 さて、今回撮った写真を選ぶ際にデジタルで見ると、5枚に一枚くらいは笑っている。
 撮ってもらう時に、前の晩、CDで聴いた古今亭志ん生の『三軒長屋』の話を思い出し、「思い出し笑い」したからだ。【高濱 賛】

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