「日系人こそ、日米の未来の希望」
ゴーフォーブローク記念碑では献花
博物館で行われたVIPレセプションに臨んだ安倍首相は、約150人の参加者を前にあいさつに立った。「温かい歓迎に感謝したい。全米で最大の日系コミュニティーを有し、日本との長い友好の歴史を有する当地の訪問を光栄に思う」と、感慨深げに話した。
今年は戦後70年の節目を迎え「さまざまな困難に絶えまず、日系人としての誇りを持ってさまざまな分野で活躍し、米国と日米関係の発展のために貢献した不屈の精神と、不断の努力に心から敬意を表したい」とたたえた。日本と日系人の関係については「『祖国』として誇りに思い、日米の懸け橋となって大きな功績を伝えてくれた。祖父(岸信介首相)と、私が米院議会で演説できたのは、日系人のみなさんが、日本の信頼を回復してくれたおかげでもある」と敬意を表した。
米議会演説で、日米同盟を「希望の同盟」と称したが「日系人こそ、『日米の未来の希望』である」と表現し、「日本人と日系人の深い絆は、時空を越えてつながり続けると確信する」と力説した。
首相は、すべてのゲストとの記念撮影に応じた。参加者は、もちろん大喜びで、首相と昭恵夫人とともに笑顔でグループ写真に納まった。日米の絆はこの夜、さらに強まり、日系社会での首相の「支持率」は確実に上がったようだった。
首相は今年3月に、訪日した招聘プログラムのメンバー10人を官邸に招いた。参加者の1人のリチャード・モリモトさん(シカゴ・ノーザンウエスタン大学博士、分子生物科学部)は、今回の首相訪問を心待ちにしていたといい「日系人の歴史を伝える博物館に来てくれた。『日米の強固な関係の構築は、日系人が成功の鍵を握っている』と言ってもらい、われわれは本当にうれしく思う」と喜んだ。
MIS(米陸軍情報部)の語学兵として従軍し、戦後は日本に駐留したイサオ・ハサマさんは「安倍首相に実際に会うことができ、とても驚いた」と語った。首相の訪米を歓迎し「戦後の日米のよい印象を物語っている。こういういい関係が続けば、日米は対立することはないだろう」と、平和を願った。第100大隊に所属したトクジ・ヨシハシさんは「私の父方の親戚が日本軍に属し、親族が敵と味方に分かれて戦った」と、複雑な胸中を思い出しながら、首相の献花は「予想していなかった。とても印象的だった」と話した。
レセプションに参加した金井紀年さんは、中曽根首相が1985年に当地を訪れた際、レーガン大統領主催の歓迎晩餐会にも出席したという。同首相に同行したのは、外務大臣だった安倍首相の父の晋太郎氏だったといい「その息子さんが総理になって、(さまざまな改革を行い)命がけで日本を守ろうとしていて立派に思う」と称賛する。金井さんは第2次大戦のビルマ戦線で多くの同胞を失った悲しみを忘れず、首相の日系人元兵士に対する献花について「安倍総理は戦争に賛成する人ではないので、献花は総理なりの表現だったと思う。心の中で、戦争で苦しんだ人を思いながら花を手向けたのだろう」と述べた。
首相は、1957年に訪米した祖父の岸信介首相が泊まった同じミレニアム・ビルトモアホテルを宿泊先に選んだ。同ホテルでは、日米交流を促進する団体などとの昼餐会と、日米経済フォーラムとレセプション、在留邦人・日系人との懇親会に参加した。首相のそれぞれのスピーチは、オバマ大統領との首脳会談や、日本の首相として初めて行った上下両院合同会議での演説とは異なり、時折ジョークを交えて、会場を和やかな雰囲気に包んだ。
昼食会にはエリック・ガーセッティ・ロサンゼルス市長やキャロライン・ケネディ駐日大使、地元の親日家や知日派ら約700人が参列し、首相を歓迎した。
1977年から2年間、USCで学んだ首相にとってロサンゼルスは、思い出深いとし、当時に思いを馳せた。LA市長とケネディ大使が、新婚旅行で日本を訪れたことを紹介し「この会場にいる人で、これから結婚する人は、ぜひ日本に来て下さい。私の選挙区に来てほしい」と促し、会場を沸かせた。
日米の経済関係については、ロサンゼルスが北米最大の日系企業の進出地であることを強調。「文化的多様性に基づくロサンゼルスの活力を、そして私が進めている経済政策による日本経済の再活性化とのコラボレーションで、太平洋を越えた1つのシナジーを生み出したい」と意欲を示した。
「ジャパンハウス」については「日本政府が、日本の考え方やさまざまな魅力を発信し、親日派の裾野を拡大するために世界各地にジャパンハウスを設置する構想を推進している」と説明。その第1弾として、世界3都市に設置し「もちろんロサンゼルスもその3都市の1つである」と述べ、大きな拍手を受けた。「ロサンゼルスから全米の幅広い層へ、そして世界へ、日本の魅力を発信していきたいので、みなさんの協力をお願いします」と呼びかけた。
2年前に訪米した際に首相は、日米同盟の再生を約束した。「希望の同盟」と位置づける今回の同盟は「気候変動、感染症、大災害など、さまざまな世界的な課題に対応するためにも日米同盟を活用していきたい」と重要性を強調した。
経済政策「アベノミクス」については「大胆な金融政策」と「機動的な財政政策」は、いい評価を受ける一方で、「第三の矢」とする「成長戦略は、的に届いてないと批判を受けている」と認めたものの「私は大学時代、アーチェリー部にいたので、私の矢は必ず的に当たる」と、自信を示して会場を沸かせた。
シリコンバレーでの視察は「スピード感にたいへん感銘を受けた。こうした活力も日本の改革に取り組みたい」とし、「新生日本を見に来て下さい」と、声高らかに訴えた。
日米間の投資を促す
「LAから新時代スタート」
日米経済フォーラムは、日系企業や日本と取り引きを行う企業経営者など参加者約400人を集め、セミナーは主に投資について話し合われた。
登壇した安倍首相は「米国から見て、太平洋の向こうには世界の成長市場のアジア、南方には大きな可能性を持つ中南米大陸がある。日米両国自身の市場があり、この巨大な市場をめぐって活発な投資をしない手はなく、米国企業の投資を促す」。アップル社が、アジアの研究開発拠点を日本に設置したことを例に挙げ「日本への投資の魅力は本物である」と自信を示した。
全世界を対象にした経済力調査(スイスの「世界経済フォーラム」調べ)で、日本が9位から6位に上昇したことに満足はせず「私が目指すのはもちろん1位である」と力を込めた。海外からの投資を喚起するために「ビジネス環境をさらに改善し、立地競争力を高める。私が改革の手綱を緩めることはない」と、今後も経済改革を推進する意志を強調した。
3月の閣僚級会議では、外国企業の日本誘致に向けて、5つの約束を徹底し、環境の整備を急いでいるという。「直接投資は、日米経済関係の基盤である。米国の連邦政府や州政府の関係者、日米両国の企業の日米間の投資をこれまで以上に活発にしなければならない」と力説した。
岸首相が57年に訪米した時に「日米の新時代をスタートさせる」と宣言したという。安倍首相は今回掲げた「希望の同盟」について「日米の協力関係は、まさに夢を実現する関係になると思う。新たな時代がスタートし、新たなチャンスが、ここロサンゼルスから生まれることを期待したい」と願った。