「とても良かったです、ダックツアー」と、日本からこの夏訪れた甥夫婦はシアトル観光を楽しんで帰っていった。
 スペースニードルの足元を出発した水陸両用バス「ダック」は、セーフコフィールド、パイオニアスクエア、パイクプレイスマーケット…と運転手のユーモアたっぷりの解説で、時には全員でガアガアとアヒル笛を鳴らしつつ、シアトル中心部の見どころを巡る。そして最後に、映画「スリープレス・イン・シアトル」にも登場したハウスボートの多数浮かぶユニオン湖に乗り入れる。ツアーは大人気で、私も数年前にはフロリダから訪ねて来た友人と一緒に乗って楽しんだ。
 が、先月24日、ダックの一台が橋上で、対向車線を走っていた貸し切りバスの横腹に突っ込み、多数の死傷者を出す事故が起きた。ダックの前輪車軸に不具合が起きたと見られている。
 死傷者はほとんどがバスの乗客。今秋コミュニティーカレッジに入学し市内観光に向かっていた留学生たちと関係者で、死亡した5人の中には日本人女性も。負傷した3人の日本人学生は、ハーバービュー・メディカル・センターに搬送された。到着したばかりのアメリカで大事故に巻き込まれての手術・治療は心細かったに違いないが、幸い同センターに勤務する日本人医師が相談に乗ることが出来たと聞き、少しほっとした。
 事故後ダック運行は、州当局の命令により原因解明まで停止となっている。
 人気のダックツアーがこれで姿を消すことになっては非常に残念に思えるが、一方、別の思いも湧く。ダックは、米軍の水陸両用車として第二次世界大戦中の1945年に製造されており、今年で70歳とか。車庫に大事に保管して時たま運転するアンティークカーと違い、現役として毎日多くの人を運ぶのに十分に安全なのだろうか、と。もしバスに衝突しなければ、オーロラ橋上のダックは50メートル余り下のユニオン湖に飛び込み、もっと多くの犠牲者を出したことだろう。
 ともあれ今はただ、負傷者たちの傷が速やかに癒え、希望に燃えてアメリカに到着した日からのやり直しが一日も早く出来るようにと願っている。【楠瀬明子】

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