敬老問題について日系社会の人たちが次々と声をあげている。初めの頃は筆者あての連絡も匿名が多かったが、いまは堂々と名前を出して意見を伝え、新聞に投稿したり、直接会って話をしたいと言ってくださる人も多い。
 たった4人から始まった「敬老を守る会」のメンバーは今や60人を超え、2回のコミュニティー集会で多くの賛同者を得て、敬老側が初めて開催することとなった説明会には400人以上が詰めかけた。州司法長官に売却の延期と公聴会の開催を求める署名にはすでに約8千人がサインをしている。
 LAだけでなくハワイやシアトルの日系メディア、そして英語メディアもこの問題を取り上げ、さらに16人の民主党下院議員たちも積極的に動き出している。
 大きなうねりとなってきたことで、誰もが気軽に集会に参加したり、実名で意見や思いを伝えたり、署名をしやすい雰囲気ができてきたことは大きな変化だといえる。
 その一方で、意見を表明することを躊躇(ちゅうちょ)する人たちがいるのも事実だ。施設の中には追い出されてしまうのではないかと不安に脅えている人たちがいる。また、自分の意見を述べて行動に移してきたことで施設の人たちから行動を監視され、いじめを受けはじめている人たちもいて、居心地が悪くなってきたことから別の施設を探し始めているという。
 敬老の理事(ボードメンバー)の中には夫婦で売却に反対をしている人もいる。その人の思いが売却決定に反映されなかったことにも何か事情があるのだろう。ある会社経営者は今まで寄付した10万ドルを返してもらいたいと表明したが、すぐにそれを取りやめた。顧客に敬老の理事たちがいることや、今後のビジネスへの影響を考えてのことのようだ。従業員の中に親族が敬老にいる人もいて、敬老側から圧力がかかったという話も聞いた。
 また、同じく親族が敬老にいることや、自分自身も日系人で身近な話題でありすぎることから、この問題について取り上げにくいというジャーナリストたちもいる。
 利害が衝突しあい、伝えたいことを伝えられず、板挟みの苦しい境遇に置かれている人たちがいる。この社会にしがらみも、恩典も、失うものもない筆者はそういった人たちの心の代弁者であれたらと思う。【中西奈緒】

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