シアトルからボーイング787で秋晴れの成田に到着し、今秋出版されたばかりの本『ホンダジェット』(前間孝則著、新潮社)を手にした。
ホンダジェットは、ボーイングやエアバスの生産する中・大型機とは対極の、ゼネラル・アビエーション(民間汎用)機と呼ばれる30席以下のクラスの中でも小型の、7人乗りの双発ジェットだ。
需要の多い土地(国)で製品を造るべきとの方針でノースカロライナ州グリーンズボロ市にホンダエアクラフト社が設立されたのは、2006年。創業以来、翼をマークとしている本田技研工業は、空への夢を長年持ち続けて来たのだという。
かつて2輪車製造から始まり自動車製造に発展したホンダは、このとき航空機業界への参入を世界へ表明したのだった。
そうして生まれたホンダジェットは今年4月、報道陣の待ち構える中、お披露目のワールドツアーの一環として羽田空港に飛来し、初めて日本の地に降り立った。胴体の下方から伸びた両翼の上に立つ支柱にエンジンを置く、人目を引くユニークな形は、空気力学的に裏打ちされているのだそうだ。
デザインをしたのは、ホンダエアクラフト社の藤野道格社長。ホンダ入社3年目の1986年に同社が航空機開発に乗り出す決定を下して以来ずっと、日米で航空機の研究・開発に従事してきた人物だ。新著『ホンダジェット』は、実に30年近いこのホンダジェットが世にデビューするまでの間の紆余曲折の歴史を紐解いていて、興味深い。今後、ホンダジェットがどのように世界のビジネスジェット市場に食い込んでいくか、注目されるところだ。
一方日本では、中・大型機と民間汎用機との間に分類される、30席から120席ほどまでのリージョナル機クラスで、MRJ(三菱リージョナル・ジェット、基本90席)の開発が進んでいる。日本の航空機開発最後の砦とも評される同プロジェクトは、三菱航空機を筆頭に、民間他社および政府からも支援を得て開発・製造が進行中。
熱い期待のよせられる初飛行は数回延期の後、遂に秋晴れの今月11日、名古屋空港を飛び立って成功。一挙に日本中の注目を浴びることになった。【楠瀬明子】