一体に、日本からアメリカに来た人の中には、どういうわけか自分の過去を美化する人が多い。裕福な家庭に育ち、一流私大を出たなんてすぐにばれるようなウソを平気でつく。年齢を3~4歳ぐらいサバを読むなんてかわいいほうだ。
 実年齢よりも若く見られたいという心理は女性、特に中高年の人が持ち合わせている共通心理なのだから、聞くほうも目くじらを立てずに「お若く見えますねぇ~」と、軽く答えておけば済む話。
 一方で、趣味の会やサークル活動の仲間うちでよくある年齢詐称は、一種のゲームみたいな感覚なのだろうけど、けっこう横行している。それでも、日常会話の中で好きな歌手、俳優、野球選手、相撲取りなどの話題になると、自ずと本当の年齢がバレてくるから面白い。
 「にくらしいほど強い」といわれた昭和の大横綱北の湖が62歳の若さで亡くなったニュースに、「だれ、その人?」との反応。「えっ、これ(湖)で、うみって読むの?」と不思議がる。そうした反応で、まだ40歳前なのだなと分かるが、北の湖は一代年寄を認められて、2度にわたり、現役時代の四股名のまま日本相撲協会の理事長職にあったのだから、40歳前という当人は、相撲には全く興味がない人なのかも。
 左四つ、右上手を取って、土俵の外へ放り投げた相手には見向きもせず、くるりと背を向けて勝ち名乗りを受ける北の湖。倒した相手に手を差し伸べるのは一見、思いやりのある行為にも思えるが、「それではかえって、相手に対して失礼になる」というのが北の湖の相撲哲学、勝負の美学。相手の手を借りて起き上がるのを潔しとしない北の湖らしいこだわり。
 かつて、ロサンゼルス巡業が行われた際、横綱北の湖は小東京のウエラーコートで堂々華麗な土俵入りを披露して地元ファンを沸かせた。LA巡業は本場所と同じような真剣な表情。インタビューもままならぬといった雰囲気で、終始にこやかな笑顔でファンに接していた高見山と好対照だったのが印象に残る。
 ウソのない実直な性質と相撲人気の回復に賭ける責任感の強さが北の湖の場合、裏目に出て、直腸がんの転移による多臓器不全をもたらしたようだ。病魔に対しても、憎らしいほど強くあってほしかった。【石原 嵩】

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