最近、著作や日本のテレビで人気を博している脳科学者の中野信子氏が出演しているDVDをレンタル店から借りて見た。この中で、中野氏は「人間の脳は100歳を超えても、その一部は死ぬまで成長する」というテーマで最近の学説を解説していた。これまで私の知る限りでは、人間の脳細胞(脳の神経細胞)は20歳位で生涯の最高値に達し、その後は日々減少してゆくと聞かされていたので、今回の説はシニア年齢のわれわれにとって明るい情報といえそうだ。
 私の体験からして、年をとるに従って脳の力が弱くなっているのではないかと気付かされることがしばしばだ。たとえば、他人の名をうっかり忘れる、以前学校で学んだはずの知識が出てこない、昼食になにを食べたか思い出せないなど、イライラする毎日だが、中野先生の解説によると、こういった物忘れは、脳の機能低下による結果ではなく、ちゃんと記憶しているのだけれど、年齢を重ねるに伴い記憶すべき情報が増えたため、整理がつかず、記憶の引き出しからすぐ出てこないだけなのだそうだ。現に何かの拍子に、または誰かからいわれて「アッ、そうだった」と納得するわけで、ちゃんと脳の中に記憶として存在しており、思い出すタイミングがずれるだけなのだという。私たちは年齢と共に脳の神経細胞の量が減少し、機能が低下するのではないというこの説に大いに共感するものだ。ただし、認知症のような病気の場合は、人の名前どころか、その人と自分の続柄や関係までが分からなくなったりし、これはお気の毒な場合だ。
 若い頃は毎日が新鮮で感動も多く、記憶に残りやすかったことも、年齢を重ねるにつれ、日々を惰性の中で無感動に生きがちで、その場合は物事を『忘れる』前に『覚えない』というのが真実なのかもしれない。そもそも覚えなければ思い出すことはないわけだ。
 年をとっても、常に好奇心をもってものに接し、ハラハラ、ドキドキする生活を送れば、忘れることもなく、脳の活性化に資することになるわけで、これからはそんな毎日を過ごすよう努めたいものだ。【河合将介】

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