ハリウッドのパンティジア劇場で「ブック・オブ・モルモン」を見た。6年前、公演と同時に一大ブームを巻き起こしたミュージカルだ。
 ストーリーはこうだ。
 二人の若いモルモン教徒が海外宣教活動でウガンダに赴く。村人たちへの宣教は難航を極めるのだが、やがて次々と「モルモン教徒」(実はモルモン教徒とは似ても似つかぬ異教)になっていく。
 ダンスは素晴らしい。「ウガンダ女性」に扮したアフリカ系女性歌手の歌声は心に沁みる。だが、これほど特定の宗教や民族を茶化し、馬鹿にしきったミュージカルがなぜこんなに米国で受けるのか。
 最初から最後まで「四文字語」が何度も何度も出てくる。そのたびに観客は大笑いする。風刺かもしれないが、特定の民族(実名だ)の持つ慣習やしきたりに対する理解も尊敬の念もない。ウガンダの人たちはこのミュージカルのことを知っているのだろうか。
 「モルモン教」でなくて、イスラム教だったとしたら、制作者は命を狙われたかもしれない。これがウガンダでなく、日本だったら、日本人はどんな反応を示しただろう。
 知人によると、モルモン教団内部でも激しい批判があったようだ。が、「これでモルモン教に対する偏見が薄らげば」と、抗議は取りやめたという。
 構想に7年を費やした。11年といえば大統領選ではモルモン教徒のミット・ロムニー氏が共和党大統領候補として立候補し、敗れた年だ。
 以前、「面白くなければテレビじゃない」というキャッチフレーズで高視聴率を誇った日本の某テレビ局があった。今テレビ業界のお荷物になっている。
 風刺(Satire)なんだから面白ければいい――。人を人とも思わず、侮辱しても、別にどうとも思わない「トランプ的な気質」は、この多民族・多文化国家にはトランプ以前からあったのか。
 〈たかがミュージカルじゃないか〉と一笑に付されるのは分かりつつ。【高濱 賛】

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