3月初め、真言宗御室派総本山・仁和寺(にんなじ)を訪ねた。京都で開かれた国際会議の合間を縫っての拝観だった。高校の修学旅行の時、来た記憶はあるが、どうしてももう一度行きたかった寺だ。
 重厚な仁王門を抜けると、左手には仁和寺を建立した宇多法皇のために設けられた「宸殿」。法皇の住居だ。京都御所の紫宸殿と同じ檜皮葦、入母屋造。内部は極彩色の襖絵が当時の風物を四季ごとに描き出している。人々の息遣いまで聞こえてきそうだ。
 国宝の観音堂や五重塔は解体修理のため、残念ながら見られなかった。それに「ご本尊の阿弥陀三像や阿弥陀如来坐像は目下、東京に行きはってお留守」(券売の女性)とのこと。
 壁には東京国立博物館で開かれている「仁和寺と御室派のみほとけ」特別展のポスターが貼ってあった。(数日後、新幹線で上京し、上野の特別展に行った。が、人また人。人ごみの中で遠くからご尊顔を拝した)
 雨のせいか、参拝客もまばらで、広大な境内に立ち並ぶ建築物をゆっくり見ることができた。
 宸殿をあとに、重厚な仁王門を抜けて、参道をまっすぐ抜けると、朱も鮮やかな中門が目に入る。中門を抜けると、右に(修理中の)五重塔、左に名勝の御室桜。桜の花はまだ固い蕾のままだった。御室桜とは、「わたしゃお多福、御室の桜、花(鼻)が低くて人が好く~」のわらべ歌に出てくる丈の低い八重桜である。しばらく歩いていくと、目前に国宝の金堂が「いにしえの世界」から突如、出現した。
 天平の雅さともののあわれを詠った兼好法師の「徒然草」の一節がおぼろげに浮かんできた。
 帰り際、妻と娘に「御守護」を買い求めた。仁王門を出ると、雨は前よりも激しく降り出していた。1000年前も同じ雨が降っていたのだろうか。【高濱賛】

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