ロサンゼルスと比べると、シアトルの夏は短い。ガレージセールなどのサインも、夏の3カ月に集中する。
不用品が出た時に、惜しみながら捨てる以外に、寄付や売るという選択肢のあるのは本当に素晴らしい。日本でも近頃はフリマ(フリーマーケット)で売ったりイーベイやメルカリに出品したりと、再利用の機会が増しつつある。時には寄付品での慈善バザーも行われる。が、ガレージセール、ヤードセール、ムービングセールなどで売ったり、教会のラメージセールやグッドウイルに寄付したりするアメリカの規模には全く及ばない。
40年以上前にロサンゼルスで始めたアメリカ暮らしでは、ガレージセールやムービングセールに世話になることが多かった。帰国する留学生が毎日少しずつ家財を売り、最後はナイフやフォークを売るのさえ見た。到着したばかりのわが家は、友人を食事に招いてもフォーク持参をリクエストするような状況だった。
しかし、シアトル郊外の住宅地に住むようになって数十年。家の中に物があふれるようになった今、目を惹かれるのはエステートセールのサインだ。
エステートセールでは、建物の中に残されている物が一切合財売りに出される。家の持ち主が亡くなって家財が売りに出されたり、大幅ダウンサイジングの必要があったり。とにかく家を空にするために、ほとんどはプロの手で、何から何まで値がつけられている。一歩家の中に入ると、かつての暮らしぶりが分かり、趣味が分かって面白い。人生の後半を気持ち豊かに楽しく暮らしたらしい様子が伝わると、何か一つ買ってみようと思えもする。
人生の終わりを前に、今流行りの「断捨離」で身の回りを軽くしておくのも悪くはない。が、捨てずに売ることも、寄付することも出来るアメリカだからこそ、好きな物はいくらでも身の回りにおいておき、自分のいなくなった後のエステートセールを想像することもまた楽しい。
ただしそれは、売ることも寄付することも出来る「物」に限るだろう。ため込んだ新聞切り抜きや書類の山は、ここらで処分しておく必要がありそうだ。【楠瀬明子】