「ビットコインに投資して、一緒に儲けませんか」と声がかかった。
実態を全く理解していない仮想通貨への投資など、思いもしないこと。しかし、声をかけてきたのは30年来の友人で、一時は余命2週間と宣告されながら骨髄移植や抗がん剤治療を経て奇跡的にここまで生き、「儲けて、死ぬ前に宇宙旅行をしたい」と言うので、話を聞くことにした。
数多い仮想通貨の走りとなったビットコインだが、誕生は2008年にサトシ・ナカモト名で発表された論文が契機と、歴史は浅い。本来の目的は、世界中の資金移動(取引)を、銀行の介在なく、しかも短時間で可能にしようとするものだという。なるほど。そしてそれは、ネットワーク上に分散されている取引記録を取引台帳に追記していくブロックチェーンで実現されている、という。
ところでこの追記作業は有志のコンピュータで行われ、その処理を一番早く成功させると10分間に一回、一定数の新規ビットコインが報酬として支払われる仕組み。これがマイニングと呼ばれるのだとか。
話を聞いてどうにか分かったことは、ビットコインへの投資とは、このビットコイン獲得作業(マイニング)に投資して見返りにビットコインの配分を受ける場合と、既存のビットコインを購入して値上がりを待つ場合との二つがあるということ。
ビットコイン購入は、株式売買と同様で理解できる。が、マイニングとなると全く初耳。ただ、その作業には膨大なデータ処理が必要で大容量のコンピュータを使うため、電力が安く、かつ機器が熱を発散しやすい土地が必要とか。アイスランドなど寒冷地に建つという工場の様子が紹介されもした。
近頃日本では、仮想通貨への投資などでたちまち億万長者になった人を「億り人(おくりびと)」と称するらしい。が、いまさらその願望はなく、ただ奇跡的に生き延びた友人への祝いのつもりで最小額の投資を決めた。
皮肉なことに、大病からの回復途上にあった友人は、それから間もなく散歩中にひき逃げに遭い亡くなってしまった。ビットコインの未来は、この後どう展開するのだろうか。【楠瀬明子】