リバティーベルといってもピンと来ない方も多いだろう。切手になっているあのヒビが入ったベル、と言えば分かりやすいかもしれない。この本物を見る機会があった。
 ニューヨークのペンステーションからアムトラックで1時間20分でフィラデルフィアに着く。長い名前の意味は「兄弟愛の市」だが、フィリーと短縮して呼ばれている。グッテンハウスと呼ばれる一角に歴史的建築物が残る。ここで、243年前にアメリカ独立宣言が起草され、独立宣言がなされた。たった一枚の紙に書かれた独立宣言、それが討議された建物、その時に打ち鳴らされたリバティーベルが保存されている。
 米国建国の街は夏場は大勢の観光客でどの展示場も長蛇の列になるという。寒風吹きすさぶ冬だったので、見学者も少なく、庭の落ち葉を踏みしめながら当時を偲ぶことができた。建物は清楚で、室内は階段の手すりも窓枠も丁寧に作られている。イギリスから逃れてきたクエーカー教徒たちの生活感が伺えた。独立宣言が起草された部屋は中央に議長のテーブルがあり、10卓あまりのテーブルには各4脚の椅子。卓の上にはロウソクとペン立て。窓から冬の穏やかな日が射し、この椅子に座った当時の人々の姿や声が聞こえてきそうな気がした。
 フィリーの市庁舎は全米一大きく、華麗な装飾が施された外観の美しさは圧倒的だ。その展望台に工事現場にあるようなエレベーターに案内人と一緒に乗り上がってみた。塔の天辺に設置された巨大なウイリアム・ペンの銅像を足元から見上げるとゾクゾクした。強風にあおられ、高く狭い塔から、フィリーの街が360度見渡せた。
 移民大国米国。人々はそれぞれの理由でこの国を第二の国に選んだ。生まれ育った母国の言語と文化を背負いながら、新しい国に溶け込もうと努力した長い歳月。自分がどこから来たかを忘れず、これからどこに向かってゆくのかを考える。目前の「自由の鐘」を見つめていると、遠くから、当時と同じ、鐘の音が響いてくるような錯覚を覚えた。【萩野千鶴子】

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