秋桜と書くコスモスは、日本では秋の季語として使われるが、加州の我が家の前庭には、真夏日が続く今を盛と咲いている。前庭は早朝に朝日を受け、植物が良く育つ。水をやるだけだが、勢いよく何重にも群生している。赤、白、濃淡のピンクと、色とりどりの花々がそよぐ姿は格別に美しい。すくすくと育ち、歩道と前庭の間、垣根の役割さえ果たしている。コスモスを透かして通りから我が家を見ると、凡庸な家に風情が加わり、物語に出てくるような素敵な家に見えてくるから不思議だ。
 ある日水やりをしていると、「これは何という花ですか」スポーツ着姿で、自転車を停めたすがすがしい青年から声をかけられた。いつも沢山の花が咲いているので散歩をする人が、よく、立ち止まって見ているが、こんな青年に花のことで、声をかけられたのは、初めてだった。えーと、コスモスは英語では何と言うのだろう。しどろもどろに返答していると、彼は「コスモス、コスモス」と口の中で何度か繰り返し、「こんな花は見たことがない、種を少しもらえないか」、と言う。お安い御用です。種がほしい程気に入ったということで、我が娘を気に入ってもらえたかのように嬉しかった。
 コスモスを英語で説明出来なかったことが悔しく、調べてみると、英語でもコスモス。古いギリシャ語で「宇宙」を意味する名前なのだと知った。「Cosmos」とは、古代のラテン語で「秩序だって整った美しいもの」「完成された世界観」と言う意味があるのだとか。メキシコ原産だが、コロンブスのアメリカ大陸発見以後、ヨーロッパに渡り、世界に広まったという。花言葉は、白は「優美」、ピンクは「乙女の純血」、赤は「乙女の愛情」
 仕事を終え、心身共に疲労して夕方帰宅すると、コスモスの花々がお帰り、と迎えてくれる。仕事の重荷をここで下ろし、秩序だった宇宙という憩いの場に帰る。【萩野千鶴子】

Leave a comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *