小学生の頃、ほとんど存在感のなかった私のことを、ある日、掃除の時間に担任の先生が、みんなの前で突然言いました。「彼のほうきの使い方をみんなよく見てまねをするように」と。「えっ」と突然の事に私自身が一番驚いていました。これは自分を本当に褒めているのか、冗談で掃除が下手であることを伝えたいのか、判別がつかなかったからです。ですが、どうやら自分の掃除方法が本当に上手に見えたようなのでした。といっても、自分では他の生徒との掃除方法のどこが違うのかよく分かりませんでした。みんなは黙って私を見ていましたが、私は「なんと言うことを言ってくれたのだ」と心の中で思いながら、懸命に掃除をしました。それからしばらくは、掃除大臣というあだ名になってしまったことに、私は自分自身を褒めてよいのか、恨んでよいのかわからない日々を送っていました。
 学生時代には、以前芝公園にあったゴルフ練習場で掃除のアルバイトをしていました。毎日、毎日広い駐車場をほうきで掃除をするのですが、秋になると葉っぱが次々に落ちてきます。この時期に駐車場の掃除を命じられることは苦痛でした。いつまで掃いても終わらない仕事に、自分の行動の意味に迷い、自分の存在の小ささを悟りました。
 最近になって羽田空港の掃除のプロフェッショナルと呼ばれている新津春子さんのことを知りました。彼女は中国残留孤児の子供として中国で生まれ、中国では日本人としていじめられ、日本で住むことになったら中国人と言われていじめられました。そんな彼女が選んだ仕事が掃除でした。
 どんな国でも掃除をする人は、下に見られる傾向があります。それを率先して選び、日本一の掃除職人になり、教科書にまで載る人になりました。「心に余裕がないと掃除はできない」と彼女は言います。単に時間を消費するだけの掃除と、丹念に汚れを取り除いていくために無心で取り組む掃除では、全く違う出来栄えになるのです。何を取り組むにしても、自分の心に余裕を持っていなければ行動する意味がないのです。あらためて掃除の意味を教えられました。【朝倉巨瑞】

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