「コラム一丁あがり!」と、心の中で呟く。もし書き起こしていたら素敵なコラムになりそう。そんなスピーチを毎週ヨガのクラスで聞いている。
 彼女はいつも何気ない身近な話題から始める。息子がスマホを壊した話、テキストを連打してくる悩み多き友人、行きつけの銭湯で見つけたツバメの巣…。話がどう展開していくのか予想はつかない。
 先週は「家族旅行で朝寝坊して飛行機に乗り遅れた」と笑いを誘った。その後の展開はさすがだった。乗り遅れても諦めず空港に向かい、奇跡的に夕方の便に変えてもらい、半日以上遅れてビーチに到着。「時間は相対的なもの」で、残りの一日、思い切りビーチで遊び、満点の星空を満喫したという。
 そのアインシュタインの言葉を引用して私たちに問いかける。この1時間のクラスをどう使うのか。なんとなく過ごしてしまうか、とても充実したものにするか。それは私たちの意識次第で変わってくる、と。
 ふと、ある言葉を思い出す。ジャーナリストの池上彰さんと読売新聞の名コラム二スト竹内政明さんが文章の書き方について対談した際の、あるくだり。
 竹内さんが中高生の作文を添削して面白いと思うのは、「半径2、3メートルの世界を書いた作品」がほとんどだという。それは「身近な世界ほど魅力的に表現できるもの」で、「自分にしか書けないもの」だから。それは子供だけでなく大人にも言えることだという。
 まるで竹内さんが、彼女の話が魅力的に聞こえる理由を解説しているかのよう。導入からはどんな結論になるか分からないワクワク。「まくら」から「オチ」まですっと通る一本の筋。小さな経験から大きな話題へ。日常で忘れがちな、それでいて大切で普遍的なメッセージを伝えてくれる。
 そんなポジティブな言葉のシャワーを浴びて、「時間は相対的」と意識しながらヨガのポーズに取り組んだ後、なんとも言えない充実感で満たされた。
 私もちょっと真似をして、半径数メートルの世界からこのコラムを書いてみた。魅力的なものになっただろうか。学生たちに混じってプロに添削してもらいたい、そんな気持ちでいる。【中西奈緒】

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