制作コーディネーターの業務で、時折、是非ともアメリカの自然を撮影したいという依頼を受ける。クライアントが提供する絵コンテやサンプル画像に基づき、可能な場所、規則、予算、保険代、スケジュールなどをリサーチし撮影許可書を申請し発効、そしてロケに出かけ…と毎回スムーズに物が運ぶとは限らない。近年は予算が大幅に削られロケハンはカットされ、ネットで徹底的に調べ尽くす。
 作品の最終的なメディアの種類や期間、露出先、映画かTV番組か? CM、ネット配信か? 放映は1年間か? 永久か? 雑誌などの紙媒体か? 公共向けの記事か? 非営利か商品か? マーケットは日本のみか、グローバルか? 撮影時の人数は? 風景のみ? 人物が入るのか? 日数は? 1日の拘束時間は? 駐車場が限られるので車の台数は? など数々の要素や条件によって撮影許可の困難度や値段が変動する。事故、怪我、災害などを想定して必ず保険をかける。天候不順のための予備日も計算した方が良い。
 ロケ地は連邦政府の所有地か、州か、郡か、市か? 私有地では法外な金額を要求するオーナーもいる。婉曲的に撮影を拒絶しているのである。交渉は前途多難だ。
 あるレストランからボードウォークを通り抜け、砂浜までの撮影を設定した時のことだ。レストランは私有地、ボードウォークは市、砂浜が始まる海辺は郡、と管轄がみな異なると判明。その結果3カ所へ許可申告が必要となり、当然保険代もかさむ。やり甲斐のある仕事だが、内心は面倒な手続きでコーディネーター泣かせだ。
 グランドキャニオン、ヨセミテ、 ロッキーマウンテン、イエローストンなどの国立公園はNational Park Service(NPS=国立公園局)管轄でDepartment of the Interior内務省の管理下になる。ナイアガラの滝のアメリカ側は国立公園と思いきや、そこはニューヨーク州立公園である。
 厳重な規則を守れば公園の保安官達はしっかりと協力してくれる。可能な限り準備万端にし、問題なく撮影を終え、クライアントが喜び、しばらくして仕上がった作品を見ると、その雄大なアメリカの自然の素晴らしさに、それまでの苦労は一気に吹っ飛ぶのである。【長土居政史】

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