国勢調査の人種や民族の背景に関する質問は、回答者自身のアイデンティティーに沿って決めればよい
 米国に住んでいるとさまざまな場面で人種や民族に関する質問に出会うことがある。国勢調査も例外にもれず、この種の質問がある。
 科学の観点からすれば、人種とは生物学上の現実とは関係なく社会上の理由から人工的に構築された概念なのだが…、といった論議はさておき、とにかく用意された選択肢の中に自分を表す回答は見つかるだろうか。カリール・アブドゥラさんはFAQ(よくある質問)への回答で、調査内容の影響をさまざままな角度から考察し、最終的には自分自身のアイデンティティーに沿って決めることが大事だと伝えている。(回答者=カリール・アブドゥラ)

 質問 国勢調査に人種と民族の質問があるようですが。
 回答 選択肢は①白人②黒人またはアフリカ系米国人③米国先住インディアンまたはアラスカ原住民族④アジア人⑤その他の人種の五つ。また、別の質問枠で、「ヒスパニック系、ラテン系、スペイン系」かどうかを聞かれます。ちなみに国勢調査では「ヒスパニック系とは人種を表す定義ではない」とされています。
 質問 私は白人でも黒人でもありません。私はエジプト人、知人はイラン人です。こういう場合はどうしたらよいのでしょうか。
 回答 あなたと知人はMENA(Middle Eastern and North African)と呼ばれる分類に当たります。2020年調査でMENAを回答の選択肢に加えることが議題に上りましたが、今回は見送られました。回答は個人に任されますが、⑤その他とする人が多いようです。ちなみにこれまでの調査では「白人」「黒人」に次いで3番目に大きいグループが「その他」でした。
 質問 それは驚きですね。米国ではヒスパニック系とラテン系の人口は2番目に多い人種のはずではないですか?
 回答 国勢調査の概念では「ヒスパニック系、ラテン系」は民族(エスニック)の分類であって、人種ではないのです。ヒスパニック系やラテン系の民族ルーツを持つ人も、人種では「白人」や「黒人」や「その他」を回答に選んでいます。
 質問 国勢調査の調査内容は以前と変わってきていますか?
 回答 調査内容は時代と共に変化しています。1920年の調査で「白人」と答えた内の50万人はアフリカ系のルーツを持つ人だったと推測されたことから、「アフリカ系米国人」との混血率を聞く質問が導入された時期もありましたが、時代の要求に応えて変化し、今ではニグロという表現も使われなくなりました。
 質問 私は米国生まれですが、両親はアフリカ生まれです。この場合はどうなりますか?
 回答 調査で回答する内容の多くが個人の主観に任されています。生まれた場所や住んでいる場所にかかわらず、自分の意識に沿って回答すればよいでしょう。
 質問 私の両親はアフリカ系米国人ですが、家系には欧州から来た祖先がいて、出身国もアイルランド、オランダ、ドイツなどさまざまです。米国先住インディアンも祖先の一人です。この場合はどうなりますか?
 回答 回答には複数の選択肢を選んでもよく、また、由来を追記することもできるようになっています。最近はゲノム検査の普及に連れて米国人の複雑な人種のルーツも分かるようになってきました。一方で、ある男性は、選択肢のボックスのすべてにチェックマークを入れようとした母親を説得して「黒人」だけにすることを勧めたことがある、と言っています。
 質問 その女性がすべてのボックスをチェックしていたら、何が問題だったのですか? 選択や情報を追加するとどのような影響がありますか?
 回答 一つには、自分自身を表すのに最もふさわしい情報を出せる可能性があります。ということは、調査員があなたのアインデンティーを間違える可能性が低くなります。そういう意味では、すべてのボックスにチェックマークが入ったら米国の歴史を理解するにはふさわしい回答となると言えるでしょう。調査内容は封印され、72年後まで開示されないことになっていますが、72年後の未来にはあなたの子孫が名前からあなたを探し出して回答内容を見ることができるようになります。実際、国勢調査は系図学者や研究者が家系の歴史調査をする際に調べる主要な資料の一つです。
 初めて憲法で義務付けて行った1790年の国勢調査では、政治的意図により奴隷は「5人で3人分」と数える調整が行われ、名前も記録されませんでした。南北戦争直前の1860年になっても、奴隷の所有者は性別と年齢を届けることはあっても名前は届けませんでした。
 質問 国勢調査に回答してもしなくても、私に直接の経済的影響はないのではありませんか?
 回答 人口を数えることの実質的な目的は、調査結果を踏まえて連邦政府や州政府の予算分配を正しく行うためです。加えて、連邦下院の州議席数の割り当てに影響します。ただし、データは諸刃の剣という一面もあり、結果が米国人の構造格差を無くすために使われる一方で、政治目的に使われることもあるでしょう。どのようにデータが利用されるかは大事ですが、まずはあなたが自分のアイデンティティーに確信を持って回答しないと、あなたの好まない人種のグループに入れられてしまうかもしれません。
 前出の男性は彼の母親のアイデンティティーに直接つながるリソースがあり、そのリソースに予算が分配され、母親が普段を過ごすコミュニティーに恩恵があるようにと考え、そのために、母親がすべてのボックスにチェックを入れようとするのを止めたのでしょう。
 国勢調査局のウェブサイト―
 www.census.gov/

多様な人種、民族で織りなす米国社会を象徴するイラスト

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