「新顔のウイルスは環境破壊の進んだ地域から浮上している。その多くはほころびかけた熱帯雨林の一隅か、人間の入植が急速に進んでいる熱帯のサバンナから生まれているようだ」。この記事は4月21日の日経新聞の夕刊「明日への話題」に「ホットゾーンを読み直す」と題した作家・篠田節子さんのコラムである。友人のメールで知った。
「ホット・ゾーン」は1989年にフィリピンからの輸入猿に起因するエボラ出血熱を扱ったリチャード・プレストンの小説で、1994年出版、全米はじめ世界でベストセラーとなった。プレストンは熱帯雨林がウイルスの最大の貯蔵庫だとしたが、篠田さんはこれを急激な開発が続く中国に置き換え、特定の地域で、特定の生物と平和共存していたウイルスを開発が解き放って、ヒトの細胞という絶好のエサと住処を大量に与えたのが今回のパンデミックではないかと発想を飛ばす。
人間の口中には数千億の細菌が住みついている。大腸など他の臓器も沢山の細菌たちがバランスを取って生きている。このバランスが崩れて特定の菌が大増殖すると異変(病気)が生じる。釈迦は宇宙の法則を、森羅万象は常に流動し他に影響を与え自らも影響を受ける「諸行無常」と喝破し、すべては「因果関係」にあると悟った。コロナウイルスは特定の意志を持った感染拡大ではない。たまたま住みやすく増殖しやすい条件を与えられた因果の結果なのだ。
地球温暖化の危機が叫ばれて久しいが、人間の欲望で温暖化に歯止めがかからない。最近では北極海も急速に氷が溶けて、北極航路の開発競争が始まろうとしている。この結果どれだけの生物や植物が絶滅し、気候変動が起きるのだろう? 南北極地も今まではそれなりのバランスを保った生物や細菌が均衡の中で生きてきた。人類は今までにも何度もパンデミックを経験している。しかし近年の科学技術の発達とグローバリゼーションのスピードは異常だ。感染拡大が緩やかに進めばヒトにも抗体が生じ、抵抗力が増して均衡を保ち得る。人間の欲望がその均衡を崩すのならまさに自業自得、人類の節度と知恵が問われている。【若尾龍彦】