連邦地検によればウイザー容疑者とその仲間が関わったとされる数々の汚職の一つは、アートディストリクトに計画された35階建ての高層マンションの建築で、組合労働者の雇用と低所得者向けユニットの両面を「最低数」で認可させた容疑。開発業者は1400万ドルに相当する建設費削減の恩恵を得たとみられている。
日系社会の代弁逮捕に衝撃
小東京も地盤のウイザー氏
開発に絡む収賄で逮捕されたウイザー容疑者はダウンタウンや小東京、ボイルハイツを含むロサンゼルス第14区選出の議員で、初当選は2005年。少年時代には羅府新報に勤務したこともあった。2012年の境界再編成で小東京が第14区に含まれてからは、日系社会を代弁する声であったはずのウイザー氏の逮捕は、日系コミュニティーにとっても衝撃だ。
メキシコで生まれ3歳で米国に移住、家族を支えるために10代で小東京でアルバイトを始めた。羅府新報の新聞少年として小東京やボイルハイツの日系家庭に新聞を配り、その後は2街にあった日本人経営の店で働いた。働きぶりは明るく、私立高校の学費を自分で稼ぎながら懸命に勉強していたという。12年に羅府新報の取材に答えた際には、「アルバイトを通じて出会った日本人らに支えられた」と話していた。
奨学金を得てUCバークレー校で学士号、プリンストン大学で修士号を取得。その後ロサンゼルスへ戻りUCLAのロースクールを卒業。土地利用事業の弁護士を経てロサンゼルス統一学校区の教育委員会に入った。05年に地元ボイルハイツを管轄区に含む第14区の市議に37歳という若さで当選した。
羅府新報に、「人々の生活の質を上げ、コミュニティーを助けることができる仕事に就け、とても幸せに感じている。夢のようだ」と語っていた。治安が悪かったボイルハイツに移民の子として育ったウイザー氏にとって、小東京は「オアシス」だったと述べ、その貴重な存在を後世に残していくために、「日系コミュニティーの声には必ず耳を傾ける」と、約束していた。
ところが13年10月になるとウイザー氏は補佐官代理を務めていた元女性スタッフのフランシーヌ・ゴドイさん(34)から、セクハラを受けていたとして訴えを起こされた。訴えはロサンゼルス・コミュニティーカレッジ評議員会への立候補を勧められた際、市議の支援と引き換えに性的関係を迫られたというもので、ゴドイさんがこれを拒否すると、ウイザー氏はゴドイさんを怒鳴りつけるなどし、自宅勤務を命じ、ゴドイさんは最終的に退職に追い込まれたと主張した。同氏は不倫関係にあった事実を認めたが関係は合意の上とし、セクハラの事実は完全否定した。スキャンダルにも関わらず15年3月には市議選で再選を果たし、最後の任期となる3期目に就いた。
18年11月、連邦捜査局(FBI)が捜査令状を取り市議の自宅やロサンゼルス市庁舎内の事務所などを家宅捜索したことがニュースになったが、何に関して捜査しているのかは明らかにされなかった。ウイザー氏を巡っては、黒い噂に加え、18年にも元職員2人から、ハラスメントや差別などを理由に訴訟を起こされている。
「18年の家宅捜査では容疑者の自宅から12万9千ドルの現金が見つかった」とモーガン捜査官は述べた。
3週間前、連邦地検との司法取引に応じた4人の共謀者の一人で市のファンドレイザーだったジャスティン・キム被告が、ウイザー容疑者に50万ドルの賄賂の仲介をしたとする連邦法贈収賄容疑の有罪を正式に認めたことが、ウイザー氏の逮捕につながった。キム被告が共謀した事件は、2016年、労働グループが、開発業者が進める高層住宅ビルの建設はカリフォルニア州の環境品質違反法(CEQA=California Environmental Quality Act)に抵触していると訴えた際に、開発業者から支援を求められたというもの。17年初頭に40万ドルの現金が入ったブラウンバッグを渡されたキム被告は10万ドルを差し引いて残額をウイザー容疑者に渡した。問題が解決した後に支払われた10万ドルはキム被告が全て受け取ったという。
米国地方検事局によると、23日の逮捕によりRICO法での有罪が確定すると、ウイザー容疑者は連邦刑務所で最高20年服役する可能性がある。【訳・編集=長井智子】
RICO法 「Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Actまたは RICO Act」は、米合衆国の連邦法「第18編 刑法及び刑事訴訟法、第1部 犯罪」の第96章(第1961章〜第1968章)及び第95章(第1951章〜第1960章)に定められた刑事法。特定の違法行為によって不正な利益を得るラケッティア活動(racketeering activit)によって組織的犯罪を行う組織(enterprise) の活動を規制し、犯罪行為に対する刑事罰と被害回復の方法(民事責任)を規定する法律。