ZOOMを利用し、村井エリーさん(写真上)からカゴクラフトの説明を受け、アドバイスをする真理子ロックリッジさん(同下)
 リトル東京サービスセンター(LTSC)が提供するスモールビジネス支援グプログラム(SBP)とコンサルタントの真理子ロックリッジさんの存在は、新型コロナのパンデミックによる営業規制の中で戸惑う日本人経営者にとって心強い存在だ。地域とのコラボレーション活動を見出した手芸専門店「カゴクラフト」(トーレランス)のオーナーの、村井エリーさんはその後もロックリッジさんにアドバイスを仰ぎ、SNSマーケティングなど、ロックリッジさんが照らし出す新しい経営の道のりに挑戦している。

 スモールビジネス支援プログラムはリトル東京サービスセンターだけでなく、チャイナタウン、コリアタウン、フィリピン系米国人、タイ&カンボジア系米国人の五つのコミュニティー組織が協力し合い、アジア・太平洋諸島系中小企業プログラム(APISBP)の庇護の下で実施するプログラムだ。
 1999年に同プログラムが始まった時の経緯を知るクック・スヌーさん(当時の創設ディレクター)は、「APIのコミュニティーには起業家が多いが、母国の言語によるビジネス支援を見つけるのに苦労していた」と話す。
 国勢調査局による最新の「事業主調査」によると、アジア系米国人が経営する事業は190万件。07年から12年の間に、アジア系ビジネスの数は23・8%増加した。「パートナーの5団体はすべて、基本的には社会サービスを提供する組織なのだが、アジア系コミュニティーは起業家精神が高いので、スモールビジネスの健全性がコミュニティーの健全性に直結していることをどの団体も認識していた」とスヌーさんは続けた。
 「だが、ビジネス支援系のプログラムに対する資金調達は難しいので、どの団体も単体では、自分たちの民族コミュニティーだけに提供するプログラムを開発する力を持っていなかった。実際、コミュニティーを特定して日系人だけ、あるいは中華系コミュニティーだけに資金を提供するようなプログラムを開発するのは困難だ。共同プログラムを運営するのが最善ということになる」
 各団体はそれぞれが、独自のビジネスカウンセラーを雇用する責任がある。その選出にはAPISBPも関わり、資金の一部は米国中小企業局の助成金から得られている。
 LTSCのビジネスコンサルタントに起用された真理子ロックリッジさんは、放送ジャーナリストで日本語に堪能。ソーシャルメディアやマーケティングなど、日系ビジネスオーナーに新しいスキルをもたらした。
 ロックリッジさんは、「(パンデミックで)連邦政府の救済資金提供だけでは対応しきれないニーズがあり、ビジネス支援プログラムによる対応が余儀なくされているように感じる」と話す。「当初は救済支援ローンの申請やリースの取得に重点が置かれていたが、今はウェブサイトやソーシャルメディアの設定に重点が置かれている」とカウンセリングの内容を説明した。

小東京のジャパニーズ・ビレッジプラザで「ブルーミング・アート・ギャラリー」を経営する池田直子さんの(右)の相談に乗る真理子ロックリッジさん
 パンデミックが始まって以来、34件のPPP承認、22件のEIDLローン、8人の個人事業主の家賃救済交渉を支援した。一方で、クライアントの40人は、彼らの家主が家賃を譲歩しないと報告し、3事業が閉鎖した。「私たちは提案したり翻訳したりすることはできても、家主に全体像を見ることを強制することはできない。また、技術の支援や行政への働き掛けなど、私たちの能力の範囲外の問題もある」と述べた。毎週、PPPの変更内容、中小企業向けの助成金プログラム、ビジネス関連パーミットなどの最新情報とソーシャルメディアのヒントなどを発信している。
 ロックリッジさんは、立ち上げの新しいビジネスオーナーに加えて、昔ながらの個人経営を長年続けてきた小東京の老舗飲食店がパンデミックでウーバー・イーツやドア・ダッシュを導入したり、ソーシャルメディアアカウントを作成したりするのを支援してきた。どの経営者もパンデミックで同じ苦労をしているという。こう楽レストラン(小東京)のオーナーである山内宏さんは、新しい顧客を得るためにフェイスブックのページを開設することができた支援への感謝を最初の投稿で次のように述べている。「今回、この厳しい状況でリトル東京の若者が、『こういう皆さんが苦しい時です、助け合いましょう』と相談に乗って下さいました・・・この人達は、自分たちも大変なのに私共のこう楽だけではありません。他のお店も助けています。皆さん、どうぞリトル東京を利用してください。この若者たちの将来のためにも」
 SBPではロックリッジさんのほかにLTSCのミーガン・テラモトさんもこのプログラムに回り、ボランティアの翻訳者たちのチームもいるが、許容力に限りがあることは否めないと話す。一方で、小東京でのプログラムの強みは、レストランやショップだけでなく日系の寺院や教会、全米日系人博物館、日米文化会館、LTSCなど、日系の文化やコミュニティーの主要施設が集まり、135年の歴史に培われた絆があることだと言う。緊密な関係は、経営者がお互いをパートナーとする創造的な、コラボレーションの感覚を育んでいるという。
 ロックリッジさんはズームを介して、手芸専門店「カゴクラフト」(トーレンス)の村井エリーさんと定期的に会っている。開店1カ月でパンデミックに見舞われて途方に暮れていた村井さんは、カウンセリングセッションを始めた当初、経営者同士のコラボレーションの事例に感銘を受けた。LTSCのソーシャルサービスがシニアに提供する無料クラスのために、カラフルなミニバスケットを作る「製作キット」を寄付するなど、コミュニティーとのコラボを実施した後、トーレンスで異業種の経営者と協力し合う機会を探し、「カゴクラフトのテープで作った『箸置き』や、箸置きの製作体験を日本料理店に提供するような企画を進めている」と話していた。その後のセッションでは主にソーシャルネットワークで手芸や商品をPRする方法ついて話してきた。フェイスブック、インスタグラム、ピンタレストからエッツィーまでのトピックをカバーしている。ごく最近のセッションで、「始めた時に16人しか閲覧者がいなかったフェイスブックで、ページ閲覧者が2万4千人を記録した」と、驚くべき成果を嬉しそうにロックリッジさんに報告した。村井さんは「ロックリッジさんのアドバイスはいつも的確だ」と称賛し、自身は助言をすぐに実行に移す行動力を示している。
 パンデミックの最中、スモールビジネスカウンセラーの役割は、アドバイスをし、度々変わる当局の規制の翻訳を提供することに加えて、経営者に希望の感覚を提供することである。ロックリッジさんは「相談者と話すときには、必ず支援と希望を届けたい。(すべての)答えがあるわけではないかもしれないが、解決方法を探していく。小さなことの積み重ねだ。一つの商品が売れるたびに経営者が幸せのダンスを踊る姿が想像できる、それがスモールビジネスだ」と付け加えた。
 前出のスヌーさんは、「このプログラムが長年継続していること自体が、支援の必要性を物語っている。現在のような状況下では特に重要だ」と指摘し、「クリエイティブさや大胆さで新しい事業を開店する起業家は、本質的に本当に創造的な人々だ」と結論付けた。
 言葉の壁、文化の壁、さらにパンデミックの異様な事態の中で舵をとるスモールビジネス経営者にとって、母国語によるビジネス支援プログラムは心強い存在だ。【グエン・ムラナカ、長井智子】

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